米国で広がる隠れた死因「薬剤耐性菌」の脅威 死亡数は10年あまりで2倍以上に

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連邦政府が、薬剤耐性菌への感染が公衆衛生に対する重大な脅威であると宣言したのは15年前である。だがロイターの調査では、薬剤耐性菌への感染に関連した死亡例がカウントされていないことが分かった。そのせいで、人命という点でも経済的損失という点でも大きな犠牲を生んでいる原因に、この国はうまく対処できていない。

生かされない教訓

たとえカルテに残っていても、薬剤耐性菌感染による何万人もの死者(また、発症するが死亡には至らない感染例はさらに多い)は集計されていない。連邦・州の機関が、そうしたデータをきちんと追跡していないからだ。全米規模で公衆衛生を監視する主役的立場の疾病対策センター(CDC)にせよ、各州の保健当局にせよ、厳しい調査を義務づけるための政治的・法的・財政的な手段を持っていない。

HIV/エイズとの闘いで米国が学んだように、危険な感染症を撃退するためには、感染および感染による死亡がいつどこで発生し、どのような人が最も高リスクなのかを示す正確なデータが必要である。データを集めることによって、公衆衛生当局は、必要なところに資金と人材を迅速に配分することができる。だが米国は、薬剤耐性菌感染を追跡するために必要な、基本的な措置をとっていない。

「ある病気でどれだけ多くの人が亡くなっているのか、まず知る必要がある」と語るのは、ワシントンに本拠を置く疾病動態経済政策センター(CDDEP)のセンター長、ラマナン・ラクスミナラヤン氏。「よかれ悪しかれ、その数字がどれだけ深刻かという指標となる」

薬剤耐性菌感染については、CDCでさえ問題の程度を把握していない。CDCの試算では、17種類の薬剤耐性菌感染により毎年約2万3000人が死亡している。これに加えて、抗生物質の長期利用に関連する病原菌クロストリジウム・ディフィシルにより、1万5000人が死亡している。

これらの数字はニュース報道や学術論文のなかでよく言及されているが、あくまでも推計にすぎない。ロイターがCDCの試算手法を分析したところ、この試算値は、薬剤耐性菌感染による死亡に関する実際の報告にはほとんど基づいていないことが分かった。

抗生物質耐性に関する調整・戦略を担当するCDCの上級顧問であるマイケル・クレイグ氏によれば、CDCは連邦議会とメディアから「大きな数字」を出すようプレッシャーを受け、「専門的な方法を採らず、印象派の絵のようなやり方」でお茶を濁したという。

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