映画「怒り」には、原作者の吉田修一も驚いた

「息継ぎなしで観せられたようで圧倒された」

――例えば、裁判の傍聴記録を読むとか。そうやって掘り下げることは。

傍聴記録は読むこともありますし、そういう記事を集めてもらって、読むこともあります。しかし、いわゆる実際の事件をヒントに書く時に、1番いいのは写真ですね。その場の写真とか、そういうところから浮かぶことが多いですね。

――印象的だった写真はありますか。

一番印象的だったのが『さよなら渓谷』の時ですね。あれは2006年にあった秋田の児童連続殺人事件から始まるんです。当時、週刊新潮で連載をしていた頃で、担当の記者さんにその時の写真を送ってもらったんです。その中に、カメラマンたちに取り囲まれている容疑者の姿を、少し離れたところから撮影した写真があったんです。容疑者の写真はよくテレビなどで見てはいましたが、一歩後ろから引いて撮った写真を見たのはそれが初めてでした。その写真を見た時に、事件の見方がガラッと変わったんですよ。テレビでは憎たらしい女の人として映っていたじゃないですか。でもあの写真を見た時に、あんなところで囲まれて、相当怖かったのではと思ったんです。そこから物語に入り込むことができました。

怒れない人の怒りは書くべきテーマ

吉田修一(よしだ しゅういち)/1968年長崎県生まれ。1997年「最後の息子」で文學界新人賞を受賞し、デビュー。2002年『パーク・ライフ』で芥川賞、07年『悪人』で大佛次郎賞、10年『横道世之介』で柴田錬三郎賞を受賞。他に『さよなら渓谷』『平成猿蟹合戦図』『太陽は動かない』『路(ルウ)』『愛に乱暴』『森は知っている』『橋を渡る』など著書多数。10月17日に『犯罪小説集』を刊行予定(撮影:尾形文繁)

――実際の殺人事件が題材になることが多いですが。

殺人事件に限らずですが、知りたいという気持ちの方が強いです。この人はどういう人なんだろうと、知りたくなってしまいます。

――最近はイライラしている人が多いように思えるのですが、吉田さんは『怒りというものをどう捉えていますか。

この『怒り』という小説に関して言うと、三つのエピソードとも、怒れない人の話なんですよ。怒れない人たちに光を当てているというか。今はむしろ怒りたいのに、怒れない人たちの方が多いのではないかと思いますよ。もちろん具体的な数字は分からないですが、それでも怒れない人の怒りというものは、小説として書くべきテーマだと思います。明確な答えがあるわけではないですが、「自分はどうなんだ」と、考えるきっかけになるのではないかと思います。

――吉田さんの書く作品には、余韻があるというか、明確に答えを出していないことが多いような気がします。それは明確に描かない方が伝わる、ということなのでしょうか。

答え探しは必死にやっています。連載など小説を書き続けている最中でも、答えを探し続けています。最初から諦めているわけではないんです。ただ、それだけやっても分からないものってあるんですよね。それが分かれば簡単にできるんですよ。この作品に限らず、いつでも答え探しをやっているんですけれど、本当に答えがでない。でも、もし答えが明快に出るのならば、次の作品を書く必要はなくなるのかもしれませんね。

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