映画「怒り」には、原作者の吉田修一も驚いた

「息継ぎなしで観せられたようで圧倒された」

――どういう感想を持たれたのでしょうか。

読んでいる間、ずっとリズムが打たれているんですよ。ドン、ドンッと。こういう読書体験って珍しいなと思いました。それはそのまま伝えましたよ。最初から脚本のための脚本ではなく、映像になるための前提としての脚本というのでしょうか。それは当たり前だと思いますが、監督の中でしっかりとリズムが出来上がっていて、脚本からもそれが伝わってきた。うまいなと思うと同時に、早く映像として観たいなと思いましたね。

――リズムというのは、千葉、沖縄、東京という三つの土地のシーンによって違うものなのでしょうか。

いえ、一緒です。しっかりと3カ所が一緒になって交じり合っていました。

小説を書く時点で映画化は考えてない

エリートサラリーマン役の妻夫木聡(右)と彼が偶然出会った無職の男を演じる綾野剛(左)。男性同士のラブシーンも話題に©2016映画「怒り」製作委員会

――吉田さんが書かれた作品の多くが映像化されています。小説を書いている最中に「これは映画になりそうだな」と思うことってあるのでしょうか。

映画化されている本数が多いので、そう思われがちですが、書いている最中は一切ないです。もちろんこれが映画になればいいな、くらいのことは思ったりすることはありますが、映画化するために書いているということはないです。映像になることを想像するのは、監督が決まってからです。普段は映像化についてそれほど意識していないですね。

――作品が映画化されてきて、いろいろな監督を見てきているかと思います。そんな中、李監督はどのような監督だなと見ていますか。

とにかく映像化という面では、本当に自分は恵まれている。今活躍されている中でも、特にいい監督たちが撮ってくださっていますから。ただ、その中でも李監督は、物の見方や考え方なんかが、他の監督に比べると、自分に重なっている部分が多いように感じます。

――そういう意味では相性が良かったと。今回の『怒り』も手応えを感じているのでは?

そうですね。『悪人』より超えている部分もあると思いますし。これからうまくいけばいいなと思っています。

――実際に起こった事件をモチーフに小説を書かれることが多いですが、リサーチというのはどうされているんでしょうか。

小説のためにニュースを見たり、雑誌を見たりすることはありません。それは日常的にやっていることであり、興味があるから見ているだけで、特に意識的に何かをやっているわけではありません。ただその中で、自分の中に残るものと残らないものがある、といったら良いのでしょうか。印象に残ったものが蓄積されていき、小説を書く時にそれが出てくる、ということだと思うんですけどね。

――ネタ帳のようなメモもしないのでしょうか。

しないですね。自分の記憶に残るものがすべてです。もちろん絶対書き留めなきゃいけないと思ったものは書き留めますが、それでもほぼないですね。

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