バリュエーション指標はバブルを警告するが……
さて、不動産のバリュエーション指標にキャップレート(キャピタリゼーションレーシオ)というものがある。これは、1年間の物件からのフリーキャッシュフローが物件価格の何%に当たるかという指標なのだが、驚いたことに私が契約しているマンションは3%を切っている(平たく言えば、今の家賃収入だと家主は33年かかって元本を取り戻せる計算)。
これは東京一等地のレジデンシャル6%、Aクラスオフィス4~5%(直近は価格変動が激しいので知らないが)よりもはるかに低い。言い換えれば毎年のキャッシュフロー水準で正当化できる不動産価格ではないのだ。不動産セクターを担当したことのある投資アナリストならば、すぐ“ストロングセル(売却を強く推奨)”でリポートを書きたくなる価格水準だろう。
ついに金融当局が不動産向け金融を引き締めた、香港不動産バブルが破裂する、破裂すると言われ続けて久しいが、実際破裂したのは私の家計のほうだった。毎年立派に約2割の値上げをのまされ続け、3年後には当初の2倍に迫る家賃を払わされる羽目になってしまった(なお同じことはその後移り住んだシンガポールでも起こっている)。ではなぜこのように、金融政策などで不動産価格の過熱を止めることができないのか。
世界中の金持ちが移住したくなる都市
実は香港では投資ビザというのがあり、一定額以上の投資をすれば永住権がもらえる。この一定額というのは、数年前は8000万円程度だったが、今では1億3千万円程度にまで上がっている。この永住権欲しさに中国本土のお金持ちたちが大量に不動産を購入していくのだ。
しかも彼ら・彼女らはせこいことは言わない。有り余るキャッシュでポーンと買っていくので、金融当局が不動産向け貸し出しを引き締めたところで彼らの旺盛な購買力はビクともしない。ご存じのように現在、中国から香港に人が押し寄せ、教育施設や出産施設の不足の問題などで社会的葛藤を生み出しているが、 “魅力的な香港の永住権がもらえる”という政治的需要も不動産価格を押し上げるのである。“キャッシュフローで元が取れない”という一般的な投資価値だけで考えると投資判断を誤るのである。
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