容体は相当に悪いのではないか。ヒラリーは2012年に脳血栓で入院したことがある。今回の体調不良は、それとは関係ないのだろうか。などと諸説が入り乱れ、ネット上ではさまざまな憶測が飛び交っている(影武者説まである!)。
真面目な話、彼女の身にもしものことがあった場合、このタイミングで候補者を交代させることは現実的に可能なのか。1972年の選挙戦では、民主党のジョージ・マクガバン候補の副大統領候補となったトマス・イーグルトンが、うつ病治療中であったことが党大会後に発覚し、サージェント・シュライバーに「差し替え」になった事例がある。
しかし、大統領候補で同じことができるとは考えにくい。候補者を代える際には、何より党内が「全会一致で」「一瞬で」決めなければならない。強いて言えば、現職のジョー・バイデン副大統領(73歳)と、予備選で最後までクリントン氏を苦しめたバーニー・サンダース上院議員(75歳)に可能性があるだろう。が、いずれも高齢であるし、それで党内をまとまるかと言えば疑問符がつく。「このまま何とか逃げ切ってくれ!」というのが民主党支持者の声であろう。ついでに海外のわれわれとしても、正直なところ「こんなことでトランプ大統領が誕生なんて、勘弁してくれ~!」との思いを禁じえない。
横綱相撲や安全勝ちは存在しない
クリントン候補とトランプ候補の支持率は、定番のリアル・クリア・ポリティクスを見ると現在3ポイントほどのリードに過ぎない 。だが実際の差はもっと開いている。米大統領選挙は全米の一般投票ではなく、州ごとに獲得する選挙人の数で決まる。そちらで計算すると、クリントン候補はフロリダやオハイオといった激戦州を落としても、十分に半数以上の選挙人を確保する見込みである。バージニア州やコロラド州など、ヒスパニック人口の多い通常の激戦州がごっそり民主党優位に転じているからだ。
しかるに米大統領選挙には、「横綱相撲」や「安全勝ち」は存在しない。11月8日の投票日まで残り2カ月を切ったが、今後は「健康問題」という爆弾が民主党陣営を悩ませることだろう。
考えてみればヒラリーは68歳(10月26日で69歳)、トランプは6月生まれの70歳だ。仮にこれが中国共産党における次期常務委員の人選であれば、両方とも年齢で足切りされてしまう(内規で68歳定年となっている)。トランプ氏は1946年生まれ、クリントン氏は1947年生まれ、いずれもわが国における「団塊世代」に相当する。どちらが勝っても、69歳で就任したレーガン大統領以来の高齢大統領となる。いや、もちろん1980年代と比べれば、今の高齢者の方がはるかに元気ではあるのだけれど。
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