夢より自由。25万字の小説を書く異彩経営者 インテリジェンス創業者、鎌田和彦氏の好き嫌い(下)

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鎌田:僕、引退って考えたことがない。死ぬまで何かやろうとしているのかもしれません。23、4でインテリジェンスをスタートした頃は「絶対50で死ぬ」と思っていた。「毎日2~3時間しか寝ないし、ぐでんぐでんになってるんだから無理!」みたいな。僕は今年で48歳ですが、今のところは死ぬ予兆がないですよね(笑)。

このあたりからしても、何かをガッチリ思って、そこを目指して進んでいくことの限界がある気がする(笑)。だいたい、石川遼が子どもの頃からオーガスタで優勝すると書いていたとか、イチローが小学校の文集にプロ野球の選手になると書いていたという話を、素晴らしいと取り上げるケースがありますよね。

楠木:ありますね。夢を持て、夢を諦めるなと。

鎌田:そう。あれはどうかと思いますよ。そりゃあ、すごいと思うけれど、同じようなことを書いて達成できなかった人は何万人といるのに、そこには全然注目していない。それでイチローがすごいとか、遼君はすごいと言うのは何か違いますよ。「ゴール設定をして生きていかないとダメだ」という風潮が人生を狭めるし、計画にこだわりすぎると挫折に耐えられなくなっちゃう。夢というのかゴールというのか、そういうのを持つのは大事だと思うけれど、持たないからといってプレッシャーを感じる必要もない。「夢がない私はダメな人間」みたいな人がいますが、「そんなことないよ、俺もないけど」と伝えたいというのが、僕にはありますね。

楠木:それは僕も全面的に一致するところです。よしあしと言うよりは好き嫌いですけど。ガッチリ目標を置いて、努力して、自分の夢をあきらめなかったから今がある、という人もいっぱいいますけどね。

鎌田:そう。それはすばらしい。

楠木:ただ、僕はちょっとできないし、向いてない。ま、フツーの人は大体そうじゃないですか。だからこそ、好き嫌いをわかっているということはすごく重要だと思います。「自分はこっちが好きだから、今こういうことをやっている」という、自分についての理解はあったほうがいい。鎌田さんのなさっていることはほとんど予定外だし、これからもわからないけれども、好き嫌いの本線は変わってないとも言える。

鎌田:そうですねえ。見事に好き嫌いで生きているということでしょうね、僕の場合。

楠木:鎌田さんとは同世代ということもあって、ずいぶん長いことお付き合いが続いていますが、昔はこの年になったときに鎌田さんが今のようなこと、2つ目の起業として中古マンション再生の会社を経営しながら、ベーカリーとフレンチレストランをやって、長編ビジネスコメディを書いているなんてことは、まるで想像がつきませんでした。でも、こうして会って話していると、若い頃とまったく変わらない。好き嫌いというのはそういうものですね。これからも、お互い自分の好き嫌いに忠実にやっていきたいですね。あくまでも、「夢」を持たずに。

(構成:青木由美子、撮影:尾形文繁)

楠木 建 一橋ビジネススクール特任教授

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くすのき けん / Ken Kusunoki

1964年東京都生まれ。1992年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年より一橋ビジネススクール教授。2023年から現職。専攻は競争戦略とイノベーション。著書に『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)、『絶対悲観主義』(講談社+α新書)のほか、近著に『経営読書記録(表・裏)』(日本経済新聞出版)などがある。

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