築地移転、延期騒動の陰に隠れた本当の問題 相次ぐ水産業者の廃業、補償にも課題あり

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移転が後ズレするほど、五輪前の環状2号線の完成は厳しくなり、会見でもこの件に関して記者から質問が飛んだ。小池知事は環状2号線の重要性を認めたうえで、東京五輪に間に合わせるため、工法の検討を行うことも示唆。しかし、あくまでもプロジェクトチームの報告を待つ姿勢は、一貫している。

移転問題で図らずも注目を集めた水産卸業界。が、以前からより根本的で深刻な問題を抱えており、今回の混乱で苦悩は一層深まっている。

増加する廃業件数

世界全体を見渡すと、食用魚介類の1人当たり消費量は右肩上がりの一方、日本は“魚離れ”により消費量は減少中。築地市場での取扱数量も右肩下がりだ。体力に乏しい築地市場の中小卸・仲卸業者の中には、今回の移転費用を捻出できず、廃業に追い込まれるところもある。

帝国データバンクの調査によれば、2003年1月~2016年8月の期間、築地市場内の企業の倒産・休廃業の件数は111に達した。近年そのペースは増加傾向にある。

魚介類の消費回復の兆しが見えない中で決定された今回の移転延期。延期により業者に生じた損害については、都が補償する可能性も示されたが、そのおカネの出どころは都民の税金である。利害関係が錯綜する中、小池知事がこれからも難しい舵取りを迫られるのは、間違いない。

(執筆は9月8日時点)

福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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