南京大虐殺と、“日本人”としての娘の戦い 私と両親と娘にとっての「現代史」

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2007年1月、完成した映画『南京(NANKING)』は、アメリカのサンダンス映画祭(インディーズ映画の世界最大の映画祭)で初上映された。その後、中国全土でも封切られた。

南京のタウン誌『城市指南』2007年1月号

同じ頃、娘は、ルームメイトの中国人学生と、南京大虐殺記念館の訪問記と意見を、南京のタウン誌『城市指南』に寄稿し、日本人の主張を述べながら、日中友好を訴えた。

映画『南京』を見た日本の衛星テレビ『チャンネル桜』の水島総社長は憤り、「向こうがそうならこっちは“南京大虐殺は幻だ”という映画をつくろう」と発案。そのためには、南京関連の一次資料を徹底的に当たりたいということで、娘に白羽の矢が立った。私の友人、国際政治学者の藤井巌喜氏を通して依頼があり、2007年10月、娘はメリーランド州カレッジパークに行った。

『城市指南』に掲載された娘の南京大虐殺記念館訪問記事

ここには、米国国立公文書館(ナショナルアーカイブス)の新館があり、東京裁判や南京に関連する資料は、実はすべてここにそろっている。娘はここに毎日通い、資料フィルムの概要が書かれたインデックスカードを1枚1枚検索した。松井石根、マギー牧師など、関連人物のカードを片っ橋から探し出し、そのカードに記載されているフィルムのコピーを下請け業者に発注する。

のちに娘から聞いたが、資料の量は膨大で、最初はいつ終わるかわからないと思ったという。娘は、この作業を1週間以上繰り返し、ほぼすべての資料のコピーを日本に持ち帰った。

アメリカ人より柔軟な若手中国人作家

ところで、南京大虐殺を描いた映画といえば、ドキュメンタリーの『南京』よりも、その後に制作された『南京!南京!』(City of Life and Death)のほうが、はるかに史実に忠実で、真実が描かれている。これは、中国の第六世代、陸川(ルーチュアン)監督の作品だが、ドキュメンタリーではない。

モノクロ映画で、南京戦が日本兵の視点から描かれていて、そこには日本兵の人間としての苦悩も中国側の葛藤も織り込まれている。この映画は、2009年に中国で、2010年には世界で封切られたが、日本では1回しか上映されなかった。

陸川監督は、この映画の制作に当たり「日本軍兵士の日記など資料を徹底的に読んだ」と語っているが、ステレオタイプのアメリカ人より中国人の若手のほうが、より柔軟に歴史をとらえているのだから、本当に皮肉だ。

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