パート労働というとき、よくセットで語られるのが扶養との兼ね合いです。従来よく「130万円の壁」と言われてきましたが、年収130万円を超えると、自身が所得税を納めることになります。また、「103万円の壁」とは年収103万円未満は、社会保険において扶養範囲ということ。サラリーマンの妻の場合、社会保険上の扶養となることで「健康保険料(社会保険料)」および「国民年金」の保険料が免除されます。(ちなみに2016年10月施行の法改正で、社会保険における被扶養者の認定基準が、年収130万円未満から年収106万円未満に引き下げられます)。
今回の最低賃金の引き上げは、この壁を超えない範囲でアルバイト・パートをしている層に対しても同じように影響します。
したがって最低賃金を引き上げた場合、実際に所得が増えるのは低所得層ではなく中間層である場合も多いということになります。時給アップによって「壁」を超えないように勤務時間を減らす主婦の方が増えてくるとも言われています。
その状況を想定して、頭を抱えている人もいます。それが、アルバイト・パートを管理している現場の社員たち。取材した外食チェーンでは
「優秀なアルバイトが主婦に多いのですが、扶養の範囲を超えないように勤務時間を増やせないことが人手不足の問題になりつつあります」
とのこと。あるいは大手スーパーでは年末が近づいてくる頃になると「103万超えてしまうから困った」という相談が店長に寄せられるようです。扶養範囲を超えてしまうからと仕事をセーブしなさい……と夫から言われるものの、店のシフト等を考えると休むことにうしろめたさを感じてしまう。そこで「時給はいらないから働かせてくれないか」という驚きの提案が出ることもあるとか。さすがにそれは店としては断るしかありません。
そうして仕方なく、経験の浅い学生を数名シフトに入れて対応するものの、慣れない状況で仕事がうまくまわらない。「扶養の壁を超えて働いてくれないものか?」と嘆く店長の声を聞くことができました。今後、時給アップになればますますこうした状況が増えそうです。
そもそも時給1000円で人は集まるか?
そもそも、非正規社員の採用において時給1000円では人材採用~確保が難しい状況になりつつあります。取材した居酒屋チェーンでは「オープンの際、問題となったのがアルバイトの人員不足で、時給1200円で応募しても集まらない事態。急遽、時給1500円にして、何とかオープンにこぎつけた」とのこと。
地方はさらに深刻で、人が集まらないということから、出店予定を見合わせた企業も出ています。これまで年間2ケタ以上のペースで新店を開店していたのが、人手不足により1ケタになってしまったというケースもあります。
そう考えると最低賃金1000円の目標はなんとも中途半端です。できれば、1500円くらいを目指さないと、人手不足に対しては効果は薄いのではないでしょうか。
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