例えば、乗数効果を無視して設備投資とその減耗の効果だけを考えてみよう。
ある年に100億円の設備投資を行い、設備は5年間で均等に壊れていくとしよう。設備投資を行った年のGDPは100億円増えて、この年はNIも100億円増加する。次の年から設備投資を元に戻すとGDPに影響は無くなるが、しかし毎年20億円ずつ固定資本減耗が発生して国民所得は20億円ずつ5年間の合計100億円減ってしまう(図)。
固定資本減耗にせよ減価償却費にせよ、会計上の数字にすぎないので実際の経済活動には影響が無さそうに思える。しかし、企業が100億円借り入れて設備投資を行ったとすれば、毎年20億円ずつ5年間にわたって借入金の返済が生じるのだから、この間企業が払える賃金も配当も実際に減少する。
設備投資を増やすことで日本経済がどこまでも拡大できるわけではない。経済成長の説明に使われるソローモデルでは、生産設備を増やしていくとGDPは増加するが、生産設備を維持するためには、より多くの生産を振り向けなくてはならなくなる。最終的には、既存の生産設備を維持するためだけにGDPのすべてを使わなくてはならなってしまい、それ以上の経済成長ができなくなる。
GDPという指標の限界
GDPを最大にするには、すべてを設備の維持に使い、消費をゼロにしなくてはならないのだから、人々の生活の豊かさを最大にするというためには、そもそもGDPの最大化は不適切だ。
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