トランプ流「移民脅威論」は何がおかしいのか

数は水増しされ経済への貢献も無視している

発展途上国のすべての人が豊かな欧米諸国へ向かおうとしているというのも作り話だ。欧米への移住者はアフリカ人の1%未満にすぎない。片や先進国の多くの人々も世界の移民数に含まれているのだ。

移民は国家予算の負担になっているとの主張もあるが、不正確だ。英国では、移民は受ける公的サービスより多くの税金を支払っている。

多くの先進国では移民が必要とされている。65歳以上の人口の割合が高い10カ国のうち9カ国が欧州諸国だが、それらの国々では低技能労働者の不足が問題となっている。

ハンガリー政府は労働市場のギャップを埋めるには25万人の外国人労働者が必要と認めた。移民には教育を受けた者も多く、OECD(経済協力開発機構)諸国では移民の約3割は大学を卒業しているとの調べもある(2010年時点)。

移民や難民は、労働者、起業家、投資家、納税者として、受け入れ国の経済に貢献するだけでなく、送金によって母国の発展も支えている。多くの途上国で、送金はGDP(国内総生産)で大きなシェアを占め、外貨の収入源となっているのだ。

成功の前例はある

もちろん課題も山積している。だが乗り越えられるはずだ。1970年代から80年代にかけ、国際社会は結束して100万人以上のベトナム人の定住を実現させた。90年代にはバルカン紛争によって約400万人が住居を失ったが、欧州諸国が立ち上がって支援した。現在の難民問題も、過去と同じように国際的な協調で対処できるはずである。

移民をめぐる状況は複雑だ。米国では共和党の大統領候補ドナルド・トランプ氏が難民を「安全保障上の脅威」と表現している。ハンガリーでは10月、難民受け入れに関する国民投票が実施される予定だ。

約2万2000人の非欧州系の難民のうち、15年にEUが受け入れたのは7200人にすぎない。難民のうち最も弱い存在である同伴者のいない何千人もの子どもたちが、まだ居場所を見つけられていない。この状況は、51年に採択された難民条約の法的義務を超えている。先進国には今こそ人道的な価値観と良識とが試されている。

週刊東洋経済8月27日号

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