米国大統領選の世論調査での支持率が7月の共和党大会直後をピークに低迷を続け、ヒラリー・クリントンにリードを許していたドナルド・トランプの選挙キャンペーンが、ここへ来て大きく戦略を転換している。
この変化は8月以降のトランプのレトリックに顕著に表れてきており、それもやや功を奏してか、9月3日のLAタイムズの世論調査では、トランプの支持がクリントンを3ポイント上回る結果となった。
トランプは勢いを取り戻せるか
新しいメッセージは、彼が予備選で遠ざけてしまったふたつのグループに向けられている。ひとつは、共和党内部のリバタリアン――トランプが予備選で破ったテッド・クルーズやマルコ・ルビオらを支援した財政保守主義者たち、もうひとつは、共和党の外のマイノリティーだ。
実際、トランプがかつての勢いを取り戻せるかは共和党内の財政保守主義者の支持をどれだけ取り戻し、同時に、白人の共和党という従来のイメージを一新するマイノリティーへのメッセージをどれだけ強く打ち出せるかにかかっている。なお後者は共和党全体に迫られている変革であり、今後の選挙戦の注目ポイントのひとつといえるだろう。
昨年の記事のなかで筆者は、トランプは茶会系ともいわれるリバタリアン寄りの共和党員にも支持を広げていると書いた。一方、かれらリバタリアンのなかには、トランプの父権的権威主義(パターナリズム)を受け入れられない原理主義者もいた。過去半世紀にわたり、政治を通じて自由市場に基づく社会を実現しようとしてきたコーク兄弟がそのよい例だ。
コーク兄弟とは石油、穀物などを幅広く手がける全米第2位の私企業コーク・インダストリーズの経営者、チャールズとデイビッドの2人であり、公的支出を抑制し、規制緩和を推し進めるため、多くのシンクタンクや財団に資金提供を続けるリバタリアニズムのパトロンである。2人は金持ちのために政治をカネで操作する黒幕として民主党から批判されていたが、トランプも予備選で2人が支援する他の候補者を「操り人形」と揶揄することで、自分が特別利益団体に紐づいていないアウトサイダーであることをアピールした。
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