「アメリカ的政治思想」の敗北と再生への道 トランプ陣営は大きく戦略を転換しつつある

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トランプ旋風の熱狂の外で態度を決めかねていた自由至上主義者たちは、リバタリアン党のジョンソンへの支持率をみると少なくとも有権者の10%程度は占めているわけだが、これからの2カ月間、両候補の言動に耳を澄まし、結局は「癌か心臓発作」のましなほうを選択することになる。

先月「支持表明はしないが、おそらくトランプに投票せざるをえない」と発言したクリント・イーストウッドのように、彼らは強い米国を望んでいるわけでも特定の党派を勝たせたいわけでもなく、候補者を政策の自由の度合いと実務能力によって判断する。これまでの支持者に背を向けずにリバタリアンの浮動票を新たに獲得するために、今のトランプの強い米国のレトリックとリバタリアン政策との均衡の取り方は、一貫してはいないが絶妙ともいえる。

困難な黒人コミュニティーへのアプローチ

トランプにとってより困難でハードルが高いのは、マイノリティー、特に黒人コミュニティーへのアプローチだろう。だが驚くべきことに、ここ最近のトランプは、ヒスパニックや黒人のリーダーと対話し、マイノリティーに寄り添う姿勢をあからさますぎるほどに演出している。前述のバージニア州の演説の中で、白人の聴衆を前に彼が訴えたのは、共和党が奴隷解放を実現したアブラハム・リンカーンの党であり、つまり、再び黒人が帰ってくる党にならねばならないということだった。

先週末の土曜日、9月3日に、トランプは黒人の元大統領候補であるベン・カーソン医師を伴いデトロイトの黒人司教の教会を訪れた。事前に書いたスピーチを読むトランプは痛々しいほどぎこちなく、逆にトランプ陣営の危機感と必死さが伝わってきた。

一方、やはりトランプらしい過激な言い方になってしまうこともある。インナーシティーと呼ばれる都市部に住まう貧困層のマイノリティーは、長年の民主党政権によって生活が向上したわけではなく、「失うものは何もない」というのだ。これまで大都市を支配してきた民主党の政策では、犯罪にまみれた貧困地区は救えないことは実証されている。もっと厳格な治安維持対策やアグレッシブな教育施策、雇用対策が必要であり、一度自分にやらせてみてはどうか、と、ほとんど破れかぶれのように訴えかけている。

これまでのトランプをみてきている視聴者にしてみれば、いまさら感は否定できない。だが歴史を紐解いてみれば、南北戦争の大義を奴隷解放としたリンカーンはもちろんのこと、米国の大統領の選択は人種間の対立と融和の歴史そのものとなっており、トランプも彼自身の歴史観と時代認識を示さないまま大統領としての自らの資質を問うことは不可能だ。特に20世紀以降、大統領は黒人社会の地位向上において象徴的な意味を持ち、大きな役割を担ってきた。

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