4月24日、オーストリアで行われた大統領選挙の第1回投票では、極右政党・自由党のノルベルト・ホーファー氏が首位に立った(5月22日の決選投票では、リベラル政党の候補に僅差で敗北)。懸念された大統領就任は回避されたが、ホーファー氏は、移民を無制限に受け入れればオーストリアの社会保障制度が破綻しかねない、と主張し選挙運動を展開していた。極右候補の同氏の躍進は、欧州の根本的な課題を浮き彫りにしている。
ホーファー氏のような主張に対し、労働経済学者は厳しく反論していた。一方、欧州の有権者からは共感を得たのも事実だ。移民の流入による社会保障への影響について、有権者の不安に付け込む右派の大衆主義政党は、大陸の至る所で支持を伸ばしている。英国でもそうした国民の不安が、欧州連合(EU)離脱の機運を高めている。
移住者の社会保障データ、EU各国で共有を
EUが域内を自由に移動できる地域として存続するには、域外との境界線の警備強化に加え、域内の社会保障制度の改革が必要だ。単一労働市場の健全性を保つには、移住してきた労働者に対し、社会保険料の納付と社会保障給付の実績を各国間で共有することが欠かせないのである。
欧州の政策論議では、域外との境界線の警備強化については一定の検討が行われている。しかし、域内の国境をまたぎ社会保障を調整する仕組みについては検討されていない。EUは今、労働者が他国に移住した場合でも各国政府が社会保障記録を追跡できる「欧州社会保障識別番号」(ESSIN)を導入すべき時期に来ている。
ESSINがあれば、移民や難民の問題について、より正確な情報に基づく議論が促進されるはずだ。
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