そこでは移民が社会保障制度にもたらす財政的貢献を評価する声も上がるだろう。実際、労働を目的とする移民の多くは若く、社会保障給付も少ない。イタリアでは移民による社会保険料の年間納付額が、社会保障給付額を約50億ユーロ上回った。同国の社会保障機構の試算によれば、過去20年間で、移民が納付した約150億ユーロもの年金保険料はその後、請求されていないという。
ただし、自国の紛争から逃れてきた難民となると話は別だ。そもそも難民の場合、亡命申請が承認されるまで働くことはできない。そのため難民は収入の低くなるケースが多く、社会保障給付の原資を奪ってしまうことにもなる。
また、国境を越え繰り返し移住する労働者については、社会保障制度を悪用するケースも散見される。たとえばEUの一つの国で働き、別の加盟国で失業手当を受給するといった事例が後を絶たない。
こうしたリスクを防ぐ唯一の方法が、前述のESSINなのである。それは、各労働者が最初に雇用された国を示す識別情報(たとえば最初の3ケタ)を含めるなどして作れるはずだ。各国の納税者番号にひも付けすれば、より使いやすくなる。
域内移動の自由保障は経済回復に不可欠
ESSINを用いれば、EU域内の自由な移動に対する不信の温床となっている、労働者の違法流入も抑制できるはずだ。またESSINを、社会保険料を滞りなく納付してきた者にしか付与しないようにし、そのうえで欧州失業給付金制度のようなプログラムを構築してもよい。
EUでは今、移民や難民の自由な移動が労働市場リスクを高める脅威としてとらえられている。しかし、域内移動の自由を促進せずして、欧州の経済を回復させることはできない。社会保険料の納付・社会保障給付を閲覧できる仕組みがあれば、持続可能性や公平さを担保できるだけでなく、現在EUが対応を問われている移民・難民問題に関しても、政策論議をより深化させることができる。
手をこまねいているだけでは、今後も大衆主義者の勢いが増すことになりかねない。
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