「すり抜けた当人」が誰かは特定できているが、これまでに法的な「おとがめ」は受けていない。ネット上などでの議論を見ると「検査をすり抜けた本人の責任」を問う声が大きいが、「すり抜けが起こり得る検査体制」や「検査場の機器配置のレイアウト」について問題視するべきだろう。
いかに日本の空港の保安体制が特殊なのか。目下、テロ対策で頭を悩ます欧州の空港の様子を説明しておこう。
まず、保安検査場にいる職員の態度が、日本とは全く異なる。利用客に対して「ポケットの中は空に」「ベルトはここで外せ」「靴は脱げ」と、命令的な口調で指示を飛ばす。サービス業の一翼を担うというよりは、「不審者や不審な物は見逃さない」という意識の強さから、必然的に対応は厳しいものとなる。「お客様に失礼があったらまずい」と丁寧な対応を心がける日本の空港の雰囲気とはずいぶんと差がある。ある日本人旅行者が欧州の空港の保安検査場で職員に対し「その態度は何だ!」と怒鳴ったら、いきなり警察に拘束された、というケースさえある。
検査場には複数の警察官の目
職員の配置も日本の空港と比べたら多いだろう。列に並んで検査機のベルトに荷物を置きに行く際や、ボディチェックのゲート(金属探知機)に入る時は、利用客は職員から指示が出るまで先に進んではならない。また、ゲートの先では職員が男女別に対応することになっており(つまり常に2人以上の職員がここにいる)、例えば女性客を男性職員が検査することは基本的にない。
加えて、検査場では常に複数の警察官が目を光らせているだけでなく、検査場内のあちこちに監視カメラを配置し、別室でモニターを見ながら利用客の中に不審な動きをする者はいないか見張っている。ちなみに国際民間航空機関(ICAO)では、職員によるその場での目視だけでなく、検査場の防犯用ビデオによる集中管理を推奨している。
報道によると、今回のトラブルの発端は、「女性客が持っていたスマートフォンの搭乗券データが検査場にあるリーダーで読み取れなかったので、あわてて職員が航空会社のスタッフを探しに行っている間に当人が搭乗ゲートに向かった」ためだったという。
「どうしてこの女性客がすり抜けできたか」という論議もあるが、そもそも検査場で搭乗券データが読み取れないことがこれほどの騒動を引き起こすような問題なのだろうか。ここでも欧州の空港での状況と比較しながら分析してみたい。
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