クールジャパンも、ワンオブゼムでしかない?
このような独自の進化を漫画表現が遂げることができたのは、日本の土壌で、すでに歌舞伎や大衆演劇、造形美術など、伝統の様式美が成立していたことが大きいのでしょう。
伝統とは、特に古典芸能を学んでいなくとも風土の中に染み込んでいるもの。たとえば『機動戦士ガンダム』のような、無国籍の未来を舞台にした巨大ロボット作品でも、よく見ると時代劇の剣戟(けんげき)アクションの影響があることがわかります。
こうした点は、国の歴史が浅いアメリカ産コンテンツの不利なところで、昔のハリウッド作品は様式美が希薄なものでした。剣戟場面でもただ剣をカンカンとぶつけ合うだけ。『スターウォーズ』でも、最初の頃のライトセーバーのアクションは、後のシリーズより地味です。
ただここがアメリカのたくましいところで、1990年代あたりから、ハリウッドはアジアやヨーロッパなど、いろんな分野、文化の美学や人材を吸収し、急速に映画の中に様式美を取り込んでいきました(もっともポール・バーホーベンやジョン・ウーのようにハリウッドが嫌になって帰ってしまった人材も少なくないですが)。
日本のオタク文化の影響というのも、そのひとつの流れだったと思います。まねたまねないの話ではなく、文化とはそうした相互刺激で成り立っているものでした。
ひるがえって今の日本のコンテンツ産業を見ると、こうした相互刺激が希薄で、独自の文脈に依存している分野ほど危ないのではないか。
もちろん「じゃあ自分はどんなグローバルな活動をやってるんだ」と言われたら返す言葉もありません。私も、もっと若かったら英語のできる人と組んで『ニンジャvs.ゾンビ軍団』を書き、キンドルストア経由でアメリカの出版界に殴り込むところなのですが(草野球の選手がメジャーに殴り込むようなものですが)。
そんな渋い述懐はともかく、アメコミの老舗、マーベルでは日本人の若いアーティストたちもコミック作画に参加しているそうです。彼らにお会いして、インターネットを使い海の向こうから軽々と仕事を受けるそのスタイルに驚いたものでした。もしかするとこれが次世代日本人の感覚なのかもしれません。
どうも今時は、女の人のほうが平然とそういった仕事に挑む傾向がある。そんな気がします。
【初出:2013.3.2「週刊東洋経済(2030年あなたの仕事がなくなる)」】
(担当者通信欄)
『風の谷のナウシカ』の漫画版、初めて読んだときには、なかなか読み進められず、なんだか不思議な気がしたものでした。一コマずつ背景が細かに描きこまれ、場面が転換していくアメコミ型漫画であったため、処理に時間がかかっていたようです。だんだん読むスピードが上がっていったのを、自分が慣れたからと思っていましたが、読み返してみると、巻数が進むにつれコマ割り自体が、日本漫画の文法に近づいているようで……。同じ調子で、世界各国のコミック作家さんが日本型のコマ割りの刺激を取り入れるのも、あることなのだろうなぁと感じました。……と思っていたら、堀田先生談によりますと、「伝統的なアメコミ」ばかりでは、なくなってきているのが現在のアメコミ事情だったりするそうです。
さて、堀田純司先生の「夜明けの自宅警備日誌」の最新の記事は2013年3月4日(月)発売の「週刊東洋経済(特集は、円安の罠)」で読めます!
【努力型の主人公は、もはや過去?】
『巨人の星』、『タイガーマスク』、『あしたのジョー』……叩き上げのキャラクターが主人公に選ばれる時代は終わった?
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