──老人がコーチ役、東条がクライアント役で対話は始まりますが、途中で老人が自分の弱みを告白する場面があり、それ以降は時折立場が入れ替わりますね。

はい。老人は柔軟で開放的な人だけど、完璧な人、仙人じゃない。ただ東条はそんな老人の中に、人間としての品格のようなものを感じるようになる。品格って何だろうと思い巡らしながら、今度は自分が老人に助け舟を出すことで学んでいくんですね。教えることが学びとよくいわれるように、ただ教えてもらうだけの学びというのはあまり大きくない。次に自分が教えられるようになったとき、人は大きく学ぶんです。
奥野老人自身、かつて自分の話を聞いてもらうことで救われ、傾聴の大切さを知る経験をし、今度は自分が傾聴することで人に喜んでもらっている。ただ彼も、どうしても納得できない息子との関係という内なる闇を抱え、そこから目を背けてきた。東条は老人の悩みに対し自分が与える側に回るわけですね。奥野老人が東条に暗示的に教えた、人に興味を持つ、人の話を聴く、相手に考えさせるということを、今度は東条が実践したんです。
とにかくとことん聞くことが大事
──「第一の対話 傾聴」で始まって、時間、強み、仕事、成長、自由、役割、仲間、約束、品格と10のテーマが並びます。
シニアが幸せにたどり着くための項目ととらえていいかもしれません。この中で私がメッセージとして強く残したいものをあえて選ぶとしたら、「傾聴」「強み」「役割」かな。
「傾聴」はとにかくとことん聞くこと。コーチングの基礎であり、すべてここから始まる。自分がコーチングをしていて、デキる人に多いのが聞くのを嫌うこと。部下が相談に来ても「君が言いたいのはこういうことだろ」と先回りして一方的に答えてしまう。奥さんが「今日こんなことがあって」と話し始めると、「それはこうすればいい」と相手の話を遮って自分が結論づけてしまう。でもそれをやめて、相手の話に耳を傾けようよと。東条はその典型だったけど、老人から妻と後輩上司に実践することを促されると、相手の態度はもちろん、何より彼自身が大きく変容していく第一歩になった。
そして自分の「強み」はそのまま生かしながら、相手の強みも理解し生かしていく。忘れてはならないのが、誰もが持ってる弱みとは強みの裏返しで、それぞれにかわいいということ。素直にさらけ出すことで信頼関係が生まれるし、弱みとしっかり向き合うことで、逆に乗り越える機会を手にできる。自分の新しいパターンを作ることもできるのです。
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