トヨタ「86」は最新進化で何が変わったのか この運転の楽しさは現行トヨタ車No.1だ

拡大
縮小

電子制御関係では前述したようにVSCに「トラック」モードを新設し、限界時でもドライバーの操る領域を増やした。このプログラムは前述のニュル挑戦車のそれを流用したという。

空力に支えられている86の走り

外観デザインでは空力バランスを見直した。トヨタの発表によれば、「86の走りの半分近くは空力に支えられている」という。空力によって操縦安定性を担保するのというスーパーカーやレーシングカーの常識を、200psクラスの量産スポーツカーに持ち込んでいるところが新しい。アルミ押し出し成型のリアスポイラーは伊達ではない。

内装では、レーシングドライバーからのフィードバックによってステアリングホイールとメーターを新規開発している。トヨタ最小径だったステアリングホイールはさらに径を小さくして362mmとし、断面は握ると自然に脇が締まる形状にしているという。うーむ、脇が締まるのかなぁ……と聞いていて感心。このスポーツステアリングはほかのトヨタ車にも採用する。

メーターでは計器盤に4.2インチの液晶画面が加えられたことが新しい。Gモニターやストップウォッチ機能などを持っている。中央に位置するタコメーターは、最高出力発生回転付近の7000rpmが真上になるように変更された。

なぜかエンジンの改良については多くを語られなかったけれど、もしかしたらそれはスバルの担当分野だったからかもしれない。マニュアル車の2リッター水平対向4気筒は吸排気系の改良により、最高出力が7psアップの207ps/7000rpmに強化されているのだ。

2008年から開発の始まった86は、12年の発売以来、16万台が販売された。姉妹車のスバルBZRの4万台を足すと4年で20万台以上に達したという。アフターパーツ市場が成立するのが10万台と言われているので、これを優に超えた。そう笑みを浮かべて語ったのは開発を担当している多田哲哉チーフエンジニアである。

そもそも86は、「若者のクルマ離れ」という自動車メーカーにとって致命的な危機意識から生まれた。なんせスポーツカーは儲からない。ある一定のマニア層に普及してしまうと、そこから先はマーケットがないからだ。ドアが2枚しかなくて背が低くて狭くて荷物が載らない、走ることのみを喜びとするペトロヘッド、オタクのためのクルマなのだから当然だ。その儲からない商品をつくらないことには、クルマがテレビ、冷蔵庫、洗濯機のような家電と同じ運命をたどることになる。我が世の春を謳歌したメイド・イン・ジャパンの家電メーカーが今どうなっているか。

かくして三河の世界一の自動車メーカーは、資本関係にある上州太田市を訪ね、トヨタが企画しスバルが開発・生産するという夢のコラボレーションによって、2リッター水平対向4気筒エンジンをフロントに搭載する後輪駆動の2+2スポーツカーを誕生させたのである。

幸いにして、というべきか、日本市場では当初40〜50代がオーナーのほとんどだったけれど、最近は購買年齢がどんどん下がってきていて、20〜60代の比率が均等になってきている。驚くべきことに北米市場では当初の目的である20代が一番多いという。しかも20代の7割近くがマニュアルを選んでいるという。

そんなわけで86/BRZはオススメです。

(文:今尾 直樹)

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT