筆者は、エグゼクティブのプレゼンやスピーチのコーチングを行っている職業柄、多くのリーダーのコミュニケーションを間近に見てきたが、日本の政治家の演説に共通しているのは以下の3つの特徴だ。
なまじ場数は多いので、「自己流」で「うまくなった気」がするらしく、鉄板の受けネタをマスターし、地元のおじいちゃん、おばあちゃんを沸かすことぐらいができるぐらいになると、「これでよし」と自信をつけてしまう。ひたすら弁論の腕を磨き、コミュニケーションで人々の心を揺さぶり、かき立てることに死力を尽くす欧米の政治家に比べると、実に寒々しいレベルなのだ。
イギリスのテリーザ・メイ首相の就任演説
ここで、最近話題のイギリスの新女性宰相、テリーザ・メイ氏の就任演説をご紹介したい。胸の谷間がセクシーでドキッとさせる、さすが「おしゃれ番長」だが、低音で迫力のあるスピーチはなかなかの貫禄だ。
ここで気づくのは、I(私は)という主語が圧倒的に少ないことだ。You(あなた、あなた方)もしくはWe(私たち)がほとんどだ。わずか5分弱のスピーチで、Iは11回、Weは24回、Youに至っては32回も使っていた。格差の拡大、世代間の価値感の隔たりが先鋭化し、国としても分裂の危機にある中で、連帯感を高めたい、という意図もあるだろう。
しかし、政治は何より、国民のためのものであり、一部の特権階級を利し、政治家の私利私欲や自己顕示欲を満たすものではない、ということを訴えたかったのではないか。「絶叫」も「俺様系の主張」も、「一人語り」も徹底的に排除し、とことん有権者に寄り添うメッセージがじんわりと心に残る。
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