銀行VS.証券、金融最終サバイバル決戦へ 投資非課税制度(日本版ISA)新設で始まる口座獲得競争

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唯一、2003年から投資に関する軽減税率が適用されてきたが、残念ながら、これは株式市場が大きく低迷し、国民の間に株式離れが蔓延する中では、デイトレーダーなど一部のマニアだけが恩恵に浴した。軽減税率の適用で数千億円の減税規模となったものの、その果実の享受には国民的な広がりはなかったと言っても決して過言ではない。だが、軽減税率に代わって、14年4月1日に始まる日本版ISAは違う。

来年を見越し、今年夏から「真剣勝負」へ

それを象徴しているのが冒頭の銀行幹部の発言にほかならない。その大きな理由の一つが日本版ISAの仕組みにある。同制度の場合、専用口座の開設が「1人1口座」に限られることがそれだ。公的優遇措置があろうがなかろうが、金融ビジネスでは口座開設は1金融機関に1口座という限定はあっても、顧客ベースで1口座という制限はなかった。

証券は銀行に勝てるか(野村證券、撮影:梅谷秀司)

したがって、Aさんが三菱UFJ銀行に口座を開設しても、ライバルである他の銀行、証券会社はその後塵を拝してもAさんにもうひとつ口座を開設してもらえば、レースはイーブンに持ち込めた。

だが、日本版ISAの場合、利用顧客は1口座しか開設できない。「もうひとつの講座」はないのだ。そのうえ、現在の仕組みでは、利用顧客は4年間、別の銀行、証券会社に口座を移動することもできない。金融機関の立場に回って言えば、ライバル他社に先を越されれば、その挽回はままならないことになる。

要するに、事実上、口座獲得競争は先手必勝の一発勝負。しかも、何もしなければ、ISAの専用口座の開設を通じて、既存顧客そのものを奪われかねない。そんな未体験ゾーンに近い「過酷なレース」が銀行、証券会社を待ち受けている。

しかも、14年初の開始に先立って、10月1日には口座開設のプレセールスが解禁となる。この前哨戦に勝てなければ、14年の個人マネー取り込みという本戦への参戦が困難化してしまう。したがって、10月からが真剣勝負である。「解禁に向けて、夏場には水面下の動きがヒートしてくる」と大手クラスの銀行、証券会社と情勢分析し、いま、最終戦略の立案を加速化させている。

浪川 攻 金融ジャーナリスト

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なみかわ おさむ / Osamu Namikawa

1955年、東京都生まれ。上智大学卒業後、電機メーカー勤務を経て記者となる。金融専門誌、証券業界紙を経験し、1987年、株式会社きんざいに入社。『週刊金融財政事情』編集部でデスクを務める。1996年に退社後、金融分野を中心に取材・執筆。月刊誌『Voice』の編集・記者、1998年に東洋経済新報社と記者契約を結び、2016年にフリー。著書に『金融自壊――歴史は繰り返すのか』『前川春雄『奴雁』の哲学』(東洋経済新報社)、『銀行員は生き残れるのか』(悟空出版)などがある。

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