楠木建「すべては好き嫌いから始まる」 今の日本に必要なのは「矢印のリーダー」だ

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事業を創るのは、ものすごく大変な仕事なので、何か人とは違うめちゃくちゃ得意なことがないとダメだ。単に法律の知識があるとか、ファイナンスがわかるとか、企業の現在価値を素早く計算できるとか、そうした定型的なスキルを超えた特別な能力が必要になる。

そうした能力をつけるには、すさまじい努力が必要になるが、好きでないとそこまでの努力はできない。今の理屈を逆回しにすると、次のようになる。

「自分の好き嫌いがわかっている」→「好きなことと現実の仕事に折り合いをつけられる」→「好きな仕事だから、努力が努力でなくなる」→「人から見ると努力だけど、苦でなく努力できる」→「すごく上手になる」→「仕事ができる」。私はこの因果の論理がキャリアなり仕事の大黒柱になると思っている。出発点はあくまでも好き嫌いだ。

アンディ・ウォーホール、マック原田社長の好きなこと

たとえば、芸術家のアンディ・ウォーホールが好きなことの本質を抽象化していえば、それは「観察」だと思う。観察とは何かというと、「自分でかかわらない、自分で発言しない、自分で影響を与えない、でも見ている」ということ。彼の一番好きな「観察」を形にすることによって、あのポップアートが出てきたのだと思う。

「戦略の神髄は、思わず人に話したくなるような面白いストーリーにある」と説いた『ストーリーとしての競争戦略』(楠木建)。経営書として異例となる18万部の大ヒットとなった

「絵を描くのが好き」「ペインティングよりドローウィングが好き」というのは具体レベルの好き嫌いだが、それをどんどん抽象化することで、自分が好きなのは観察だと行き着き、そこに確信を持つことによってああいう新しい芸術活動が出てきたのだと推測する。

ビジネスでいえば、すぐに思いつくのが日本マクドナルドの原田泳幸社長。マクドナルドが大変な状態に陥っていたときに経営を引き受け、立て直したわけだが、原田さんにしても「非常事態と逆境が理屈抜きに大好き」「瀬戸際に追い込まれるほど元気と力が出てくる性分」だという。そう人だからこそ、あれだけの成果を出せたのだと思う。

「焼き鳥はタレより塩が好き」とか「お酒はぬるめの燗がいい」とか「肴は炙ったイカでいい」とか、あまりにも具体的なレベルで好き嫌いを言っていても、仕事にはならない。一度高見に上って、世の中のありとあらゆる仕事を見てみると、仕事と自分の好き嫌いを関連づけられるようになる。そうでないと、「自分も将来はAKBに入りたい」というフワフワした話になってしまう。よく「あなたの夢は何ですか」とか「夢をあきらめるな」と言うが、そんなことを言っているうちは仕事にならない。

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