女子がなぜか集まってくる「西荻窪」の引力 秘密は体育会系気質ゼロのユルさ

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たとえば、2月には会員がそれぞれやりたいことをプレゼンするイベントが開かれたが、そこで「ドイツ料理のイベントをやりたいが、作り方は知らない」と発表した会員がいた。すると、参加者の一人が「父がオペラ歌手でドイツ料理にも詳しい」と発言。ほどなくイベントは開催され、しかも満員御礼となった。

こうしたコラボレーションが実際の商品開発に結びついた例も出ている。岩手県・釜石の醸造メーカーから商品開発の依頼を受けた広告代理店勤務の会員がほかの会員と相談し、酒粕や味噌を使ったパウンドケーキを開発。被災地支援のイベントで販売され、大好評を博した。この商品は釜石での量産が決まり、今月開催の岩手県地産食材のコンテストに出品されることにもなっている。

okatteにしおぎでは竹之内氏がマスターリースのための会社を設立、飲食店、菓子製造業としての営業許可を取得してあるため、新商品を実際に製造、販売することも可能。「家と街」を結ぶパブリックコモンスペースという新たな空間が、住民や会員が集える遊び場としてだけでなく、新たなビジネスを生むインキュベーション施設にもなりつつあるのだ。

アパート経営という観点から見ても、有意義だと齋藤氏は言う。「全部を住宅にしても最大で7~8室。でも、住宅だけにして、空室時に広告費を使うより、3室に抑えてokatteに人を集めることでPRし続けるほうが、無駄がありません。空室が出てもメンバー、その知り合いで埋まるでしょうし、メンバーの会費も経営安定に寄与しています」。

縦の関係からはコラボレーションは生まれない

ここまでの経緯を齋藤氏は「街が小さい西荻窪だから成立した」とするが、私は街のサイズに加え、この街のマッチョな体育会的縦関係ではなく、フラットな横の関係を築きやすい環境が作用している部分が大きいと思う。コラボレーションは上下関係からではなく、対等な関係から生まれるものだからである。歴史ある街や、商店街が強い街の中には、新しく入ってくる人たちに対して「マウンティング」するような姿勢で臨む人たちがいる。

一方、西荻には老若や性別、住んでいる年数などを気にしない人が多くいて、それが中性的で上下関係のない環境を作っている。それこそが女性や意識の若い人たちなどが、居心地が良いと感じる理由であり、多くの面白い店を引きつける理由ではないか。

もちろん、個人経営には持続性という問題がつきまとい、趣味の延長程度の小商いを続けるのは難しい。現在は、個店を支える富裕層が多く住んでいるという土壌があるが、今後相続などにより住む人の層が変わっていくことも考えられる。「西荻窪らしく」あり続けるには、いかに収益第一主義ではない人々と、それを支える住民や訪問客を引きつけ続けられるかによるのではないか。

中川 寛子 東京情報堂代表

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なかがわ ひろこ / Hiroko Nakagawa

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。オールアバウト「住みやすい街選び(首都圏)」ガイド。30年以上不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービスその他街の住み心地をテーマにした取材、原稿が多い。主な著書に『「この街」に住んではいけない!』(マガジンハウス)、『解決!空き家問題』(ちくま新書)など。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会各会員。

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