為替レートが経済動向を決める
「大型補正予算で経済活動が刺激される」というのは、「経済に需給ギャップがあるから、財政支出拡大で需要を追加すればよい」との考えだ。こう考えている人は、前述のメカニズムを考慮していない。
この人たちが依拠しているのは、一昔前の計量モデルや経済予測で用いていたモデルだ。これは、実物的なフロー量の均衡モデルで、「所得支出モデル」と呼ばれる。そこでは、消費や投資などのフロー変数しか考えられていない。為替レートや金利は、モデルの外で決まる変数として、一定の値が仮定されている。
しかし、現在の日本で最も重要な経済変数は、為替レートだ。為替レートは輸出に影響を与える。それが企業の利益に影響を与え、設備投資を決める。こうしたルートで、実物的なフローに影響が及ぶ(このメカニズムは、伝統的なマクロ経済学が想定しているものとは異なる)。
図に、2001年以降の実質実効為替レート、株価、民間設備投資を示した。04年頃から実質為替レートが円安に向かい、それに伴って株価が上昇し(つまり、企業の利益見通しが改善し)、それが設備投資を増やしている。経済危機後、実質為替レートは大幅に円高になり、現在に至るまで、大きな傾向的変化はない。これに対応して、株価も落ち込んだ水準でほぼ一定であり、また設備投資も目立って増えてはいない。
為替レートは、内外金利差などに反応する国際間資本移動によって決まる。資本移動がこのように大きな影響を持つのは、金融緩和のために短期資金の調達が容易になっているからだ。そして、国際間の資本取引が自由化されているので、投資資金がどこに向かうかで、金利と為替が決まるからだ。これが、過去10年間程度の世界経済の動向を決める基本的要因になっている。
このため、前記の所得支出モデルで考えると、経済の最も重要なポイントを見落とすことになる。
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