長期金利上昇、国債バブル崩壊の懸念 大型補正予算が日本経済に与える影響は?

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バブルとその崩壊の連続で世界経済が混乱

先に、「補正予算で新規国債が増発され、その影響が次第に国債残高全般に及んでいく」と述べた。この点について補足しよう。

国債残高は「ストック」だ。他方で、毎年の新規国債発行額は「フロー」である。国債残高は700兆円程度で、補正での増加額は5兆円程度だ。国債は基本的に同一資産だから、原理的にはそのすべてが同じ価格になる。そう考えると、補正予算が金利に与える影響は、700分の5に過ぎず、小さいように思える。

しかし、ストックのすべてが直ちに市場価格の変化に反応するわけではない。国債の場合、金融機関が保有している分は根雪になっており、あまり変動しない。したがって、新発債市場という限界的な市場では、5兆円の増発でも需給を大きく悪化させ、金利が上がるのである。

そうではあっても、時間が経てば、その影響は国債ストック全体に広がる。このプロセスで、国債価格がバブルを起こしていることが影響する。日本の財政状況の深刻さを考えると、現在のような高い価格は不自然だ。事実、銀行はこれがバブルであると判断し、金利高騰に備えて、保有国債の短期化を図っている。

だから、何かきっかけがあると、バブルが崩壊する可能性が高い。補正予算はそのきっかけになりうる。また、長期から短期への乗り換えがさらに進むだろう。

為替レートの場合、貿易収支や経常収支は「フロー」だ。それに対して、ドル資産の総額、円資産の総額がストックである。為替レートはストックの価格だ。

介入で限界的な部分の需給が増え、為替レートが一時的に変化する。金利差が大きいと、これがストックの変化(ポートフォリオの変化)を引き起こして、国際的な資金の流れを変え、為替レートをさらに変化させる。これが、04~07年頃に起こった現象だ。

貯蔵のできない生鮮食料などは、その時々の需給で価格が決まる。これがフロー価格の基本的な性格だ。しかし、金利や為替レートなどのストック価格は、フロー価格とは異なる性質を持っている。いま一度要約すると、次の2点が重要だ。

第一に、限界的な市場で生じた価格変化が、やがてはストック全体の価格変動を引き起こす。

第二に、将来に対する予測が現在価格に影響するため、バブルが起こりやすくなる。バブルが崩壊すると、大きな価格変動が起こり、経済活動を大きく混乱させる。

事実、ここ10年間程度の世界経済は、バブルの発生と崩壊で大きく変動してきた。アメリカで住宅価格バブルが発生し、それが崩壊して金融危機が起こった。アメリカから流出した資金は南欧国債に流れ込み、バブルを起こした。それがギリシャ財政破たんをきっかけに崩壊し、いま資金は日米独の国債に流れ込んでバブルを起こしている。このような過程がどこに行きつくのか。きわめて見通しにくい。

(週刊東洋経済2013年2月2日号)
記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

野口 悠紀雄 一橋大学名誉教授

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のぐち ゆきお / Yukio Noguchi

1940年、東京に生まれる。 1963年、東京大学工学部卒業。 1964年、大蔵省入省。 1972年、エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。 一橋大学教授、東京大学教授(先端経済工学研究センター長)、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、一橋大学名誉教授。専門は日本経済論。『中国が世界を攪乱する』(東洋経済新報社 )、『書くことについて』(角川新書)、『リープフロッグ』逆転勝ちの経済学(文春新書)など著書多数。

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