なおここで北アイルランド情勢にも触れておくと、全体では55.8%対44.2%で残留を求めたものの、スコットランド同様に、イングランドに圧倒された形となった。
より詳しく見ると、さらに問題が浮かび上がる。UKとのつながりを重視するユニオニスト(主にプロテスタント)と、逆にアイルランドとの紐帯を重んずるナショナリスト(主にカトリック)とのあいだで、投票行動が真逆となった。
たとえば、北アントリムのようなプロテスタント地区では倍近いスコアで離脱派が勝利したのに対し、カトリック地区のフォイルでは4倍もの大差で残留派が離脱派を上回った。これは、宗派やエスニシティごとに支持政党が全く異なるボスニアで見られる投票行動と大差ない。
離脱派の北アイルランド首席大臣(首相)アーリーン・フォスターは、国民投票の結果を妥当とした一方、かつてIRA(アイルランド共和軍)指導者だった残留派の副首席大臣マーティン・マクギネスは、さっそく北アイルランドはアイルランドとの再統一について住民投票すべきと発言している。長いあいだ反目してきた両派は、UKとアイルランドの双方がEU加盟国だったことも手伝い、対立が収まっていたわけだが、今後に懸念を残した。当面、EU加盟国であるアイルランドと離脱を余儀なくされる北アイルランドとの国境や物・人の往来がどのように展開するのか、まずは見守る必要がある。
「国民統合機能」を果たせない政党
以上がイギリスの国家統合における領域的亀裂を示唆しているのに対し、階層的な分断を経由して、政党による国民統合もまた、機能不全にさらされている。
周知のことだが、ここ1世紀近くのあいだ、イギリスの政党政治では保守党と労働党が支配的な地位を占め、1人区の勝者総取り形式の選挙制度もあいまって、自由党→自由民主党(1989年10月以降)が小党にとどまり、第3党として主要両党に絡むというのが、基本的な構図であった。それらの政党は、国民の声を吸い上げ、議会をつうじて統治機構へと接続するつなぎ目に位置し、大切な国民統合の機能を果たしていたのである。
しかし、2015年総選挙では多党化し、地域政党化の様相も示した。単独過半数を得て勝利した保守党のみならず、労働党も得票率は増やしたのだが(議席は減)、自民党は壊滅し、57から8に議席に減らした。逆に、スコットランド国民党SNPが議席を6から56に急増させて第3党になった。イギリス独立党も得票率では第3党に当たる12.6%を得た(議席は1のみ)。SNPはスコットランド特有の現象であり、イギリス独立党は基本的にイングランドに基盤を持つ(一部ウェールズにも浸透しているが)。
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