英国が「EUを離脱しない」は本当なのか

「EU研究第一人者」北大・遠藤教授が予測

仮想できるシナリオは、「リスボン条約50条ボタン」を押すのを引き伸ばし、政府や議会が時間稼ぎをすることであろう。しかし、これでは、国民投票の結果を打ち消せはしない。

国民主権と議会主権がねじれれば深刻な憲政危機に

とすると、いずれかの政党(指導者)が残留を正面から掲げて、総選挙を闘うシナリオが理論的に仮構しうるが、それは正面から、何のための国民投票だったかと、意味(権威)を国民に問うてしまう。一度結論を出した国民に、同じことを総選挙が問うとき、国民主権と議会主権とは競合する。それを国民はどう受け止めるだろうか。特に、国民の多数が離脱を表明し、議会選で残留派が再度多数を占めて、結果がねじれたとき、深刻な憲政危機をもたらしうる。

なお、総選挙で残留を問うたとしても、残留派が勝利するかどうかはかなり疑問である。今回の投票を総選挙の区割に落としてシミュレーションすると、421対229で離脱派が勝利することになる。この差は、1997年のブレア労働党による地滑り的勝利よりも大きい。

結果として、次期首相を決める保守党の党首選で、残留を説く候補は一人もいなかった。先頭を走る内相テリーザ・メイ内相は控えめな残留派だったが、国民投票後「離脱は離脱」と明言し、他の選択肢を否定した。政府の交渉方針を2016年内に固め、しかるのち、おそらくは年が明けてから50条を発動し、交渉を開始するという見込みに言及しており、彼女が保守党党首(首相)になれば、多少のずれはあっても、そのようなスケジュール感で進んでいく可能性が高い。

同じく議会路線で、EU離脱はするが単一市場には残るべきと公約し、総選挙を闘う政党(指導者)がでる可能性も排除できない。それに勝てば、離脱はするけれども、EUとノルウェーのような関係をイギリスが結ぶことが可能になるかもしれない。

しかし、そうすると、EU移民は自由往来し、拠出金は払いつづけることになる。今回の国民投票の結果(および総選挙で負けて退陣する可能性)をまえにして、そのような経済的合理性を説き、政治的突破力を発揮する指導者が現在のイギリスにいるとは思えない(全盛期の元保守党政権蔵相ケン・クラークが後継首相だったら、と思わないではないが、それは妄想に過ぎない)。

そうすると、せいぜい出来るのは、「ステルスによるノルウェー型の関係構築」であろう。つまり、遅延ののち、忘れた頃に目立たぬようEUと手打ちをし、単一市場へのアクセスを維持するというシナリオである。ただし、それはやはり、正式にEU離脱を意味する。

従って、国会の法的権威だけで、今回の根本的結果、つまり離脱の決定じたいをひっくり返すのは無理と思われる。

もちろん、国民投票のやり直しは可能である。結果を残留へと覆すなら、それしかないのではなかろうか。このシナリオは、離脱交渉が不利に終わり、経済的な大不況がイギリスを襲った場合、数年内に実現する可能性もないわけではない。そうでなくても、10-20年のスパンで見たとき、EUへの再加盟を問う可能性もある。とはいっても、そこでEU(再)加盟派は勝利するとも限らず、またEUがどうなっているかもわからないのである。

第3回は7月中旬の予定です。

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