英国が「EUを離脱しない」は本当なのか 「EU研究第一人者」北大・遠藤教授が予測

✎ 1〜 ✎ 19 ✎ 20 ✎ 21 ✎ 22
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

同地では、欧州委員長や欧州議会議長などとも面会し、スコットランドのEU残留の道を模索しているが、スペインやフランス政府からは反対されている。イギリス政府が、EU脱退手続きを定めたリスボン条約50条のボタンを押し、離脱交渉を本格化させれば、規定により2年後には脱退が完了してしまう可能性が極めて高い。それまでに独立を獲得し、EUへの残留を継続できるか、瀬戸際だと考えているのである。したがって独立への機運が改めて高まっており、UKの国家的統一が危ぶまれているとまではいえよう。

UKは生き残る?スコットランド独立の「3つのハードル」

けれども、機運の高まりと独立の達成との間には大きな開きがある。言い換えれば、独立はそう簡単ではなく、多くの障害がある。ここでは、3つ挙げよう。

第1に、憲法的な問題がある。2014年の住民投票が効力を持ったのは、実は事前にUK政府とウェストミンスター議会がその投票の実施を認めたからである。その権威づけなしに実施されるということになれば、法的には単なる自発的な投票サンプル調査とみなされかねない。その場合、たとえ住民投票にたどり着いたとしても、2014年11月にスペインのカタルーニャで行われた独立投票のように、効力のないものと中央政府に一蹴される可能性もある。

第2に、経済社会的な問題がある。近年の原油価格の下落で、北海油田からの収入が当てにならなくなっているのを脇においても、EUから離脱したUKと、独立後のスコットランドとがどのような関係を結ぶのか不明確なままである。2014年投票時にも深刻な争点となった通貨の問題は解決していない。UK政府が、当時「もし独立なら、その後のスコットランドはポンドを使うのを許さない」としたこともあり、多くの有権者が不安を覚え、独立に反対した。ユーロ圏に加盟できるのは(すでに独立した)国家であり、しかも財政状況や移行期間を含め厳しい条件が課される。簡単にポンドから切り替えられるわけではない。

そもそも、離脱したUKから独立するには別の大きな問題も抱える。というのも、UKがEUにいれば、スコットランドが独立しても、加盟国同士、共通市場や人の自由移動を維持できるが、離脱後の独立は、EU内のスコットランドとUKという域外国との間に、物や人の移動を阻害する国境をつくってしまう。

スコットランドの対EU貿易は、石油やガスを除いた2014年の数字で、UK向けの4分の1ほどでしかなく、その比率は前年比で減っている。まがりなりにも、300年ほど連合を形成していた2つの間で、こうした往来上の障害が生じるときに、人びとが抱える不安や不利益は大きいものとなろう。これは、EUとUK、あるいはスコットランドとUKが物や人の自由移動について協定を結ばない限り、新たに生起する問題である。

第3に、政治的な問題がある。つまり、こうした諸問題を抱えながら、もし数年の間に2度目の独立否決という投票結果に終わった場合、単なるスコットランド政治指導部の責任問題では済まない。ちょうどカナダのケベックで起きたように、数世代にまたがり、独立は封印されるであろう。そのリスクを冒すかどうか、当然に躊躇が見込まれる。じっさい、スタージョン首席大臣(首相)は、数々の手を打ちながら、独立を問う住民投票についてコミットするのを慎重に避けているのが現状である。

それでも、独立への希求を抑圧するのは困難である。経済面で一時的に混乱しても、いったん独立し、自国通貨を刷り、EU加盟を待ち、UKと物や人の移動について友好的な協定を結ぶシナリオが排除されるわけではない。したがって、たとえ短期的には独立がむずかしくとも、中長期的にどうなるのか、事態を注視する必要がある。

次ページ北アイルランドとアイルランドの関係は?
関連記事
トピックボードAD
マーケットの人気記事