MITのハッカーたちは常に、誰も思いつかないような突拍子もないことをして、皆をあっと言わせてやろうと考えている。研究も、誰も思いついたことのないアイデアを思いつき実行する仕事である。僕には経験がないが、ビジネスだってつまりは誰も考えついたことのない製品やサービスを世に出すことが成功の鍵なのだろう。
アップルの創業者であるジョブスとウォズニアックが、自作の「ブルー・ボックス」でバチカンの法王庁にイタズラ電話をかけた逸話は有名だ。発明王エジソンもイタズラ好きで、若かりし頃に駅の夜間電信係として働いていた時、一時間おきに決まった内容の電信の打つだけの退屈な仕事に飽き、その仕事を自動化する装置を開発して自分は居眠りしていた、というエピソードもある。
東大よりも京大の方が多くの自然科学系ノーベル賞受賞者を輩出している理由も、もしかしたら京大生のイタズラ好きの性質にあるのかもしれない。
アジサイは植えられた土壌の性質により咲く花の色が変わる。自分のアジサイが青い花しか咲かせないことを嘆き、赤い花が咲いている隣家から株分けしてもらって自分の庭に植えても、青い花しか咲かない。同じように、人間も学校や職場の雰囲気によって咲かせる能力が変わるのだと思う。
海外の学校のカリキュラムを取り入れたり「グローバル人材」を採用することはもちろん大切だが、それと同じくらい大切なのは、人が学び働く「土」を変えることだと思う。校則厳守一辺倒の教育で、物理法則を書き換える大発見をする研究者が育つだろうか。出る杭を打ち常識人であることを求める社風から、常識を覆す製品が生まれるだろうか。全員が同じ作業着を着なくてはいけない工場から、個性豊かなデザインが生まれるだろうか。
MITの合格通知書に書かれたメッセージ
MITでは遊び心からビジネスが生まれている。
2006年、Carl Dietrichという学生がある突拍子もないアイデアを思いつき、Lemelson-MIT Prizeという発明コンテストで3万ドルの賞金を得て、それを元手に友人たちとTerrafugiaというベンチャー会社を作った。そのアイデアとは「空飛ぶ車」だ。自宅のガレージから出て公道を車のように走り、空港に着いたら翼を拡げ、そのまま飛び立つ。
こんな冗談のようなアイデアを、ベンチャーキャピタリストだけではなく行政も支援した。「空飛ぶ車」は飛行機と自動車の両方の安全基準を満たさねばならないことが開発のハードルとなるのだが、米国運輸省のNational Highway Traffic Safety Administrationは彼らの要求に応じ、一部の安全基準を三年間に限り緩和する特例を認めた。「空飛ぶ車」は既に飛行試験・走行試験をほぼ終え、今年末に一台27万9千ドルで発売される。既に100台を超える受注を得たそうである。
最後にもうひとつエピソードを紹介したい。2012年にMITに合格した高校生たちへ大学から送付された合格通知書に、こう書かれていたそうだ。
「この通知書が入っていた筒を使って、何か楽しく、クリエイティブな、あるいは芸術的なハックをしてください」
これを受け取った女子高生のErin Kingさんは、この筒にGPS、カメラと送信機を取り付け、気球に載せて宇宙まで飛ばしてしまった。MITの合格通知書が宇宙を飛ぶシュールな映像はサイトで公開されている。
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