MITの創造力は”遊び心”から生まれる
世界トップの研究機関たる真の理由

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宇宙工学を志すきっかけになった、ボイジャー

最後に、JPLの最も粋な「遊び心」を紹介したい。

JPLのエンジニアたちは、先に触れた探査機ボイジャーに「宇宙人への地球土産」を積んだ。その土産とは一枚のレコード盤だった。ジャケットには人間の男女の絵や地球の位置が描かれ、レコードの再生方法が宇宙人にも分かるように絵で説明されていた。

(画像提供: NASA/JPL)ボイジャーに搭載されたレコードのジャケット。

レコードに収録されたのは、様々な言語での挨拶や、波の音、風の音、鳥のさえずり、そして、人類の創造性のもっとも崇高な結晶のひとつである、音楽だった。モーツァルト、バッハ、ベートーベンなどによる傑作と並んで、「鶴の巣ごもり」という尺八の曲も収められていたそうだ。

この素敵な地球土産が宇宙人に届くのはどんなに早くても約4万年後になるそうだが、そもそもそこに宇宙人が存在するかすら分からない。ボトルに手紙を入れて大洋に流すようなものだ。非現実的だと笑う人もいるだろう。国民の血税を使うのに費用対効果が一切見込めないと「仕分け」てしまうこともできよう。

だが、そんなつまらないことを言う前に、こんな詩的想像を巡らせてみてほしい。何万年後かの未来、もう地球文明が滅びたあとかもしれないが、宇宙のはるか彼方で、異形の宇宙人がボイジャーを見つけ、レコード盤を廻して針を置く。そして流れてくるベートーベンを聞きながら、彼は夜空を見上げ、その彼方にあるボイジャーの故郷の美しい惑星と、そこに存在した詩情豊かな文明について思いを馳せるのだ。

僕が宇宙工学を志すきっかけとなったのも、このボイジャーだった。それについては次回にお話しすることにしたい。

小野 雅裕 NASAジェット推進研究所(Jet Propulsion Laboratory)技術者

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おの まさひろ

1982年大阪府生まれ。2005年東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。2012年マサチューセッツ工科大学(MIT)航空宇宙工学科博士課程および同技術政策プログラム修士課程修了。2012年より慶應義塾大学理工学部助教。2013年より現職。火星ローバー・パーサヴィアランスの自動運転ソフトウェアの開発や地上管制に携わるほか、将来の宇宙探査機の自律化に向けたさまざまな研究を行なっている。阪神ファン。好物はたくあん。主な著書は、『宇宙を目指して海を渡る』(東洋経済新報社)。

ブログ: onomasahiro.net/
Twitter: @masahiro_ono

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