宇宙工学を志すきっかけになった、ボイジャー
最後に、JPLの最も粋な「遊び心」を紹介したい。
JPLのエンジニアたちは、先に触れた探査機ボイジャーに「宇宙人への地球土産」を積んだ。その土産とは一枚のレコード盤だった。ジャケットには人間の男女の絵や地球の位置が描かれ、レコードの再生方法が宇宙人にも分かるように絵で説明されていた。
レコードに収録されたのは、様々な言語での挨拶や、波の音、風の音、鳥のさえずり、そして、人類の創造性のもっとも崇高な結晶のひとつである、音楽だった。モーツァルト、バッハ、ベートーベンなどによる傑作と並んで、「鶴の巣ごもり」という尺八の曲も収められていたそうだ。
この素敵な地球土産が宇宙人に届くのはどんなに早くても約4万年後になるそうだが、そもそもそこに宇宙人が存在するかすら分からない。ボトルに手紙を入れて大洋に流すようなものだ。非現実的だと笑う人もいるだろう。国民の血税を使うのに費用対効果が一切見込めないと「仕分け」てしまうこともできよう。
だが、そんなつまらないことを言う前に、こんな詩的想像を巡らせてみてほしい。何万年後かの未来、もう地球文明が滅びたあとかもしれないが、宇宙のはるか彼方で、異形の宇宙人がボイジャーを見つけ、レコード盤を廻して針を置く。そして流れてくるベートーベンを聞きながら、彼は夜空を見上げ、その彼方にあるボイジャーの故郷の美しい惑星と、そこに存在した詩情豊かな文明について思いを馳せるのだ。
僕が宇宙工学を志すきっかけとなったのも、このボイジャーだった。それについては次回にお話しすることにしたい。
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