ドル安加速し95円へ、一方でユーロは底堅い 「EU分裂」よりも「大英帝国分裂」に現実味

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なお、オバマ米大統領は米国とのFTA(自由貿易協定)交渉に関し、離脱した英国がEUより優先されることはない、と述べている。最悪の場合、英国はEUと何ら特別な互恵関係を結べず、WTOベースの貿易関係、要するに最も基本的なルールの適用に甘んじることになるかもしれない。この場合、英国はEUに対して何ら義務を負う必要はなくなるが、巨大な単一市場を横目にしてそのメリットをまったく受けないということになる。最悪といわざるを得ない。

離脱によるメリットを感じられない時を過ごした後に実施される2020年5月の英国総選挙では「EU離脱は正しいものだったのか」が争点になる可能性が高い。

注目は今後2年間の英国とEUの交渉に移るが、離脱した英国にEUは一切の手加減をしないだろう。2018年6月までの間に英国、EUの双方が納得の行く合意を円滑に形成できれば良いが、EUからすればここで甘い顔をするわけには絶対にいかない。

「離脱の連鎖」は起きるのか?

離脱が実現した場合、EUにとって最悪の展開は「離脱の連鎖」が起きることである。英国が「蟻の一穴」となり、ギリシャは元よりフランスやイタリアなど、通貨ユーロの下で不遇をかこっているセミコア国に対し類似の思惑が高まる展開こそ、EUの政策当局が最も忌み嫌うものである。

来年以降の政治日程に目をやれば、春にはフランス大統領選挙、秋にはドイツ連邦議会選挙がある。英国離脱が、ただでさえ各国で勢いづいている右派ポピュリズムの「追い風」になることは確実であり、EUは英国に対し、厳しい立場を貫くはずだ。

こうした状況では、「新たな関係」を巡る交渉において、EUがそう簡単に英国にとって都合のよい協定を用意するとは思えない。過去に幾度となく行われてきたEUの英国に対する譲歩は、結局のところ、英国のEU残留に向けた温情という意味合いが強かった。もはや離脱することを決めた英国に対し容赦する必要がないと考えるのが自然であろう。

また、英国に譲歩するほど、それは第二、第三の離脱候補に対してインセンティブを与えるようなものである。そう考えると、「カナダ・モデルのもとでうまく立ち回る」という英国側のシナリオも実現はかなり難しいように思える。EUの内輪揉めはこれまで"なしくずし的"で、よくいえば中道、悪くいえば中途半端な解決策を模索することが多かったが、本件に関しては一切の手加減をしないという交渉姿勢で臨むだろう。

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