日本への影響は直接的なもの、間接的なものの2つにわかれる。直接的な影響としては在英日系企業をめぐる動きである。上述したように、シングルパスポート・ルールをテコに業務展開してきた金融機関は拠点の再考を迫られそうだが、事業法人も類似の悩みを抱える。
例えば、英国に工場を設立し、そこから巨大なEU市場をターゲットに輸出していた企業などは影響を受ける。EUという関税同盟の下で構築されてきた部材の供給体制(サプライチェーン)に英国が組み込まれていた場合、離脱後は英国抜きの体制を再考する必要が出てくる。もちろん、関税同盟の下では免除されていた事務手続きが復活することなども英国離れの一因となろう。英国にとっては雇用・賃金環境の悪化を介して、景気の下押し要因になる。
間接的な影響は、円高を介したものである。日本の輸出企業は英国のEU離脱を受けて、サプライチェーンの毀損に加え、通貨高の逆風を受け、ダブルパンチとなる企業も出てきそうである。そのほか、英国のEU離脱自体が欧州景気を冷え込ませるとの見方もあり、対ユーロ圏向け輸出の下振れという格好で日本経済に逆風となる可能性もある。いずれにせよ英国のEU離脱は日本経済にとってもろくな話になりそうにない。
ドル安は加速、「90円台」が主戦場に
最後にG3通貨(ドル、円、ユーロ)を中心とする為替相場への影響を検討してみたい。この点、筆者の見通しは、英国のEU離脱決定を受けても何ら変わっていない。
筆者は前回の記事(『米国は6月利上げでも、後が続かない~金融政策は通貨政策に収斂される~』)では、特定の通貨ペアに限らず、今後の為替相場の読み解く上での鍵は米国を取り巻く「ドル高の罠」ともいえる苦境だと解説した。
現状の世界で利上げを検討できる中央銀行がFRB(米国連邦準備制度理事会)だけである以上、FRBがそれをほのめかせば世界の運用難民が米国へ押し寄せ、その結果、ドル独歩高がその都度強まることで米経済が思わぬ引き締め効果を被り、FRBはハト派に傾斜することになる。結局、利上げをしたくてもドル高が怖くて動くに動けない、という悪循環が「ドル高の罠」である。
英国のEU離脱がこうした「ドル高の罠」に対し与えた影響を考えるとすれば、「世界で利上げを検討できる中央銀行がFRBだけ」という前提自体が揺るぎ始めたということだろうか。いずれにせよ今回の一件によって従前のドル安見通しは一段と加速したと考えざるを得ない。
さらに言えば、英国のEU離脱は、米大統領選挙において、同種の主張を振りかざす共和党候補のドナルド・トランプ氏が勝利するリスクにもつながる材料でもあり、やはりドル相場の再浮上を予想するのは相当、勇気が要る。
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