貧困報道を「トンデモ解釈」する困った人たち ある階級の人たちは「想像力」が欠如している

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彼の筆致は貧困者にいっさいバイアスをかけることなく、淡々と見たままを描く。それこそ前段の「加害者像」ですら包み隠さない。その視線は、僕の著書の「3番目の読者」に近く、最も一般読者寄りな視点だろう。確かに残酷だが、明らかに貧困には縁のない読者に向かって貧困者を見せ物化する「陰惨」さは感じない。

中村さんの記事はことに「支援者サイド」にすこぶる評価が低いらしいが、いざ貧困周辺の当事者が見たときに評価が高いのは、実は中村さんの記事だ。なぜならそこには「なんだ私と一緒じゃん」というありのままの当事者像が描かれているからで、逆に鈴木は「わかるけど……あんたどんだけかわいそう物語盛ってんの」と言われる。

中村さんには貧困問題がコンテンツとして消耗されてはならないという危惧を持ってほしくはあるが、やはり本来はバイアスとリアルの両サイドが必要なのかもしれない。

さて、ならばいったいどうすればいいのだろう。どうすればよかったのだろう。面倒な論考に、もう少々お付き合いいただきたい。

本音を言えば、貧困問題なんて「人道」の一言で解決がつけばよかった。苦しいと言っている人を見たら、誰もが手を差し伸べてくれるような世の中ならよかった。かわいそうバイアスな報道から社会的弱者や困窮者に興味を持ち、実際に触れてその面倒くささや加害者像や出口のなさを知ってなお、そのそのバックボーンの痛みにまで思いを馳せてくれる読者が、もっともっといてくれてもよかった。

貧困当事者は「苦しい」と言わない

だが結局のところ、貧困の当事者は「苦しいです」とは言わないし、見るからに苦しそうに見えない人も多い。そこでバイアスな報道をしたところで、階級間の世界観の分断と人の想像力の限界の前では、人道主義なんかあまりにももろく、「鈴木が書くことが本当だとして、それは個別の事例ではないのか?」「著者は取材対象者に思い入れし過ぎで、やっぱ当事者には自己責任があるんじゃないか」と感じる人々に声が届くことはない。

ましてリアルを見たら、コンテンツ上の貧困者に同情できた人も、貧困者の攻撃サイドに回りかねない。ならばどうすればいいのかと、いろいろ考えてきた。こんな報道はどうだろうか?

この日本にある貧困を放置した結果に、それこそこの社会問題が「具体的にわが身に降りかかる火の粉」となって襲ってくるというトーンだ。

たとえば、「子供の貧困を放置すれば将来の日本は経済大国ではなくなり、すべての人が貧しく暮らしづらい国になってしまう」だとか、「地方はインフラごと崩壊して人は都市部でしか暮らせなくなる」とか(そんな本あったな)、「貧困を放置した結果に日本の治安は悪化して、犯罪の横行する諸外国のようになってしまう」といった啓蒙記事。

僕自身がこうした表現にもチャレンジしてきたし、貧困問題を放置した結果に社会が被る損失も、続々と報道されつつある。が、これもまた反省点がある。

こんな啓蒙記事は、昨今、大手メディアが垂れ流している「あなたも貧困予備層?」な記事の発展版にすぎず、「俺んとこは平気」な想像力の壁の分厚い人々にはまるで届かない。

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