貧困報道を「トンデモ解釈」する困った人たち ある階級の人たちは「想像力」が欠如している

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あまりにも書いても書いても「ちゃんと伝わった」気がせずに、たどり着いた結論は、日本はそもそも不平等で、階級間の景色が隔絶した社会だということだ。格差社会ではなく、階級社会。そしてその階級間の想像力や見ている景色の隔絶。

貧困問題がいつまで経ってもリアルな社会の危機として語られず、自己責任論やら他人事な嘲笑の向こうにある理由がこれだ。この日本には明らかに格差がある程度固定した「階層・階級」があり、たとえ同じ都道府県、同じ市町村に住んでいる人々でも、その育ってきた「階級」によって見てきた風景に大きな差がある。そして人はその自らの属する階級の世界観を超えた風景を想像することは難しい。

小ぎれいな新興住宅地に生まれ育った人間には、地方の公営団地で育った子供が通う中学校の中に組織化された万引き団(入学したら逆らえない先輩たちに強制万引きさせられる)があるとか、成人式で集まったら中学時代の同級生の女の子が3人に1人は夜の仕事をしていただとか、そんな話はもう「なんちゃってヤンキー漫画」の世界よりも現実感を失っているし、下手をしたら中学校入学初日に街角で食パンくわえた女の子が遅刻遅刻言って転ぶ世界のほうがリアリティなのかもしれないのだ。

貧困を記事にするとクレームが来る

そんな絶望的な隔絶があるのだと確信を深めた素材として、こんなひどい話もあった。

とある「かつて学生運動に身を投じた団塊世代に人気の雑誌」から受けた取材の中で、記者さんはこう言った。

「子供の貧困や女性の貧困を記事にすると、読者からすごい勢いでクレームの投書が届くんですよ」

その投書の内容とは、こんなものだという。

「僕らの世代が労働階級の解放のためにずっと尽力してきたのに、いまだに腹をすかせた子供が日本にいるはずがない!」

「われわれの知っている戦後の貧困とはうんぬん~~アフリカではうんぬん~~」

脱力感に腰が抜けそうな話だが、彼らにとってはこの日本でリアルに進行している子供の貧困よりも、テレビで報道される海外の子供の貧困のほうがよほど想像がつくということ。そして彼らは想像できないものを「ない」と断言するというのだ。

ここまでくると人の想像力の限界というよりは、その階級間で景色がまったく共有されていないことが原因として最も疑わしい。格差ではなく階級とするのは、そこに生きる人々が世代を超えて「そこ」から別の景色の世界に移動する手段が限られているからである。

「自分の出会ってきた中にはそんな人はいないから理解できない」。 この言葉は、僕の知る尊敬すべき若き支援者が、未成年の少女の貧困とセックスワークの相関性について「貧困の研究者」から投げかけられたというものだ。

貧困の研究で飯を食っている研究者が、少女の貧困と性産業との相関性に「理解できない」ほどに、階級間の景色は共有しがたいというのか。研究者という学究の徒はエビデンスがないものを信じないというが、そんなお粗末な想像力ではエビデンス調査の端緒すらつかめまいよ。

このエピソードは、いまだに思い浮かべるだけでドタマに来る。

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