貧困報道を「トンデモ解釈」する困った人たち ある階級の人たちは「想像力」が欠如している

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「もしそうなるとして、それは何年後なの? そのとき俺もう死んでるし」という世代の人にはさらに届かない。「あなたたちの子供の世代がヤバい」といっても、子供に残すものがしっかりある階層の人々にはまるで届きやしない。

これはもう、届かないことが結果として出ている。子供や子供を持つ親世代よりも高齢者を極端に優遇する政策がずっとずっと、ムカつくほどにずっとまかり通り続けてきた今の日本が、まさにその結果だろう。

一方の「治安悪化」を切り口にした啓蒙コンテンツはどうか。僕の場合は、特に男の子(ことに組織的な窃盗や特殊詐欺事犯の現場にいる男の子)を中心に取材を進め、世代間を連鎖する貧困と社会から排除され続けた結果として、犯罪行為を生業とするようになった若者のライフストーリーを執筆してきたが、多くの読者の反応はこうだ。

「びっくりしました」「防犯に役立てます」……。

もうガッカリを通り越して、叫び出したくなった。

虐待があったり親の貧困があって、盗まないと生きていけない陰惨な過去があって、そんな子たちが社会へのルサンチマン(恨み)を抱えて犯罪をしている。何が悪かったのですか? 腹が減ったと泣いている子供を無視してきた社会が、彼らを生んだのではないですか? そうとつとつと書いた本の感想が「防犯のために親に読ませます」。大手紙の記者から「防犯記事のために取材をさせてくれ」うんぬんの依頼を受けて、どれほどの腹立ちをもって断り続けたことか。

駄目なのだ。こうした報道では、届かないならまだしも、「治安の悪化につながる貧困者を排除せよ」だとか「この危機の時代に暴走する貧困者からわが身を守る方法」といったロジックが大手を振って歩くようになる。

そして続く売れ筋コンテンツは、「持たざるものが持てるものから奪う世の中にしないためにはどうすればいいのか?」ではなく「持てる者が持たざるものからいかにして奪われないようにするのか」になり、階級間の対立感情をあおるばかりで貧困問題の解決とはいっさい関係ない方向に向いてしまう。

最悪の言い方をすれば、こんなコンテンツは綜合警備保障さんやセコムさんの株価を吊り上げるステマ報道のようなものだ。

限られた財源の中で、どこまで助けるべきなのか

では本当に、どうすれば……。結局、無能な僕には答えが出ないから、無力感や徒労感にさいなまれつつも代わり映えのしない「かわいそうバイアス」という芸風で記事を描き続けている。今もって「どう報道すべきか」に答えは出ないが、この問題は「こうあるべきです」と正解を提示するのはジャーナリストの先生様のお仕事で、僕は多くの人に論考してもらい、思索を深めていくことのほうが大事にも感じているからだ。

さて、ここまでこの長大な駄文にまじめにお付き合いいただいた読者には、きっと混乱の中にこんな疑問が惹起しているのではないかと思う。

「そもそもそんな面倒でまずい人たちだったとして、なぜ貧困者をそのままにしてはいけないのか」

「限られた財源の中で、どこまで助けるべきなのか」

報道スタンス=貧困問題や当事者のリアルをどう知ってもらうかについては答えがないが、実は僕自身が若い読者や取材対象者、たとえば大学生や詐欺の現場で働く若者などとの対話の中で、「生活保護とかマジずるくないですか?」といった質問を受けた際に、一定の説得力を持つ物語を用意することはできた。

次回はその物語「連れションと月イチ生理の謎」についてを書きたい。

鈴木 大介 ルポライター

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すずき だいすけ / Daisuke Suzuki

1973年、千葉県生まれ。「犯罪する側の論理」「犯罪現場の貧困問題」をテーマに、裏社会や触法少年少女ら の生きる現場を中心とした取材活動 を続けるルポライター。近著に『脳が壊れた』(新潮新書・2016年6月17日刊行)、『最貧困女子』(幻冬舎)『老人喰い』(ちくま新書)など多数。現在、『モーニング&週刊Dモーニング』(講談社)で連載中の「ギャングース」で原作担当。

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