家電産業を生み出していく
「米国での生産開始」そのものは、実にリーズナブルだ。それよりも、大きな意味を持っているように感じたのは、クック氏の次の発言のほうだ。
NBCの番組の中で、アメリカ国内でiPhoneをつくるようになったらどれくらいの値段になるのか、というブライアン・ウィリアムズの質問に対し、直接答えず次のように応じている(番組の該当部分)。
「価格がどうなるか、ということではないんだ。アメリカには教育システムの問題で、家電製造における高度なスキルを持った労働者の数が足りない。それが問題なんだ」
だったらどうやったらアメリカに製造業を取り戻すことができるか、というウィリアムズ氏からのツッコミに対しては、次のように応じた。
「今回のマックの生産開始がひとつの役割を果たすだろう。しかし、これまでもアメリカが家電の生産地だったことはない。だから家電製造業は取り戻すのではなく、生み出していくということだ」
「アメリカへの回帰」という言葉を使いたくなるのだが、確かに、家電産業がアメリカから流出したのは相当昔の話だ。大雑把に言えば、60年代までに白物家電などを除くかなりの部分が日本、アジア、メキシコなどに流出してしまった。そのため、米国では家電製造のスキルを持った労働者がいないわけだ。これは長年にわたってサプライチェーンマネジメントの仕事をしているクック氏の言葉だから、重みはある。
そこで、まずはマックの一部を米国内で組み立ててみる。これを呼び水に米国内でスキルを持った労働者が増えていけば、iphoneなどでも米国内生産を始めていこう、という考えのようだ。
ものづくりが日本や中国をはじめとするアジアに一方的に集積する時代が長く続いた。しかし、時代の大きな歯車が動こうとしている。アップルのようなエレクトロニクス関係だけでなく、GE、NCR、キャタピラーなども米国への製造回帰を明らかにしている。もちろん規模はそれほど大きくはない。しかし、この流れに乗り、鴻海のような台湾のEMSや韓国の大手電機メーカーも、米国での製造拠点を充実させようとしている。
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