その株価を引き上げる狙いがあることは明らかであり、悪い話をするわけはない。話している内容はポジティブでいいことばかり。クック氏がアップルに最初に出社した日は本社前で同社の携帯端末「ニュートン」からの撤退に反対するユーザーのデモが行われていた、というエピソード、ジョブズ氏が最後に残したメッセージなど、メディア受けしそうなリップサービスも織り交ぜている。
マックの米国生産は自然な流れ
中でもクック氏が目玉のトピックとして強調したかったのは、米国でのマック生産開始プランのようだ。以下がビジネスウィークでの発言内容である。
「そして来年、私達はマックの一部については米国に生産を持って来ようと思っている。 私達はこのことに長い間取り組んでおり、実現に近づいている。 それは2013年に起こるだろう。 私達はこれを本当に誇りに思っている」
クック氏の米国内生産開始の決断はそれほど違和感のない自然なものだ。第1にアップルは創業当初からしばらくは全量を米国内で製造していた、という歴史的なこと。工場内の製造プロセスへのこだわりの強さもアップルの特徴であり、実際、主要な委託先には今でも常駐スタッフを派遣している。
第2に効率面の理由。今となっては、アジア、中南米などを含む世界中でiPhoneを販売しているため、根っからのグローバル企業のように見える。実際、2012年9月期売り上げのうち61%が米国以外である。
しかし、ルーツ事業のマックに限ればもっと米国への依存度が高い。しかも、デスクトップタイプのiMacのサイズは大型化が進んでおり、大きくて重い。使用するガラスなど重量のある部材も米国内で調達できるため、消費地で組み立てることは、コスト面でもきわめてリーズナブルなのである。
第3に、これがもっとも重要なことなのだが、リスク分散による経営の安定化だ。アップルの大きなリスクは、中国に量産工場を集中展開することによるカントリーリスクだ。人件費の高騰だけでなく、政治リスクも高い。これを軽減する意味でも、むしろもっと早くから米国での一部生産をやっておくべきだった。
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