特定企業と癒着か、経産省「疑惑の公募」 最初からNTTデータが本命
経済産業省が進めるあるプロジェクトに対して、参加を求められた情報システム業界から不満の声が噴出している。「電子政府を推し進めようとする国の独り善がり。中小企業50万社へ普及するとはとても思えない」と批判する。しかもこの計画は重大な問題をはらんでいる。表向き、業者選定に公募方式を採用するものの、裏では最初からシステムの重要部分を受注する企業がNTTデータなどにほぼ決定しているというのだ。
50万社の利用で電子納税が進む?
問題のプロジェクトの名称は「中小企業向けSaaS活用基盤整備事業」。「SaaS(サース)」とは、現在IT業界でブームになっているキーワードで、「ソフトウェア・アズ・ア・サービス」の略だ。インターネットを通じて遠隔地にあるデータセンターに置かれた業務ソフトを活用する仕組みであり、中小企業向けに最適なITサービスとして、世界的に注目を浴びているところだ。
このブームに乗るかのように、経産省は“国策SaaSプロジェクト”をブチ上げた。今年度予算で上限18億円を計上、来年1月の稼働を目指している。来年度にも同額程度の予算をつけ、サービスの拡張を進める計画だ。国策SaaSの利用企業数の想定は実に50万社以上。福田内閣における中小企業活力強化策の目玉にも位置づけられている。確かに、これにより中小企業のIT化が一気に進めば大いに意義がある。
計画の詳細な中身はこうだ。今年度の予算措置において中小企業が用いるアプリケーションソフトとして位置づけられているのは財務会計ソフト。なぜ国がそのSaaS化を行う必要があるのか。経産省の説明によると、名目は二つある。
一つは従業員20人以下の小規模企業におけるパソコン利用の促進に役立つという点。「パソコンを使っていなかった零細企業でも、月額数千円の業務ソフトであれば使いたいとの意向がある。SaaSをきっかけにデジタルデバイドが解消され、中小企業の経営レベル向上にもつながる」(情報処理振興課)という。
もう一つの名目は、e‐Tax(国税電子申告・納税システム)の利用促進である。政府は2010年度までに全納税申告件数の半分以上を電子申告へシフトすることを目指している(07年度の利用率は3%)。経産省のプロジェクトにより、鳴かず飛ばずのe‐Taxの普及が一気に進むというわけだ。
「アプリソフトを販売する企業が個別にSaaSへ取り組もうとすれば、ソフトの移植費用などの初期投資負担をすべて1社で負担しなければならない。そのため、躊躇してなかなか踏み出せないとの事情があった。そこを国の予算で手助けしましょうというのが今回のプロジェクト」(同)と経産省は胸を張る。稼働開始から2年後には、プロジェクトに参加したコンソーシアムにシステム自体を払い下げるとの出口も決まっている。ここまでは、一見すると、きっちりと設計された有意義なプロジェクトに見える。
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