韓国・新大統領は「親日」か「反日」か 朴槿恵新政権とのつきあい方

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世論を見るに敏な政治家

神戸大学大学院国際協力研究科 教授 木村 幹

――朴槿恵候補の当選理由をどう見ますか。

2つある。1つは、文在寅候補側が、今回の大統領選挙において最大の争点だった経済格差の問題に明確な解決策を出せなかったことだ。

すなわち、彼の最重要な政治基盤である若年層は、格差解消と同時の、その結果としてより多くの正規雇用を求めていた。それなのに、文在寅候補側の対案は、米韓FTA(自由貿易協定)の見直しという主張に典型的に表れたような、グローバル化に逆行するものに福祉政策と財閥規制を組み合わせたものに過ぎなかった。これに若年層は満足できなかった。

特に、ソウル首都圏において彼が敗北したことは、これまでの政権が行ってきたグローバル化に対する積極的な対応戦略によって恩恵を受けてきた首都圏の若年層の一部が、グローバル化に逆行する文在寅候補の公約によって韓国の経済成長が止まり、むしろ自分たちの経済的基盤が失われることを恐れたということを意味しているのではないか。

言い換えれば、若年層の中でも「勝ち組」と「負け組」が生まれつつある。そのうち、前者を文在寅候補がうまく取り込めなかった結果、朴槿恵候補が反射利益を得たということになる。

もう1つは、世代的対立を利用した若年層動員戦略を行った文在寅候補に、中高年を中心とする保守層が強い危機感を抱いた、ということになるだろう。実際に、出口調査によると若年層の3分の2しか文在寅候補を支持しなかったのに対し、中高年の実に4分の3が朴槿恵候補に投票している。

この保守層の結集が、高齢者人口の増加とも相まって、結果的に朴槿恵候補を押し上げたと言えるだろう。

――朴槿恵候補を、特に政治家としてどうご覧になっていますか。

彼女に言えることは、きわめて現実的な政治家であるということ。彼女は保守政党の危機の度に事実上の党首として任用され、その都度選挙に勝利してきた。これに典型的に表れているように、「選挙の女王」は、世論の流れを見るに敏感な政治家。それは、たとえば今回の大統領選挙においても格差問題が中心だと見ると、「経済成長ではなく、民生重視」との主張を正面に掲げたことにも表れている。

さらに、彼女はきわめて「権力志向」の強い政治家だ。彼女は自らの政治目的を実現するためには、理念に手段を優先させることも多い。また、側近も容赦なく切り捨てる傾向がある。一部では「韓国の田中真紀子」という言い方もされることがあるほどだ。

結局、彼女はその場その場で政治的判断を行う柔軟性と現実主義、さらには側近さえ簡単に切り捨てていく冷徹さこそが彼女の真骨頂なのだと思う。その意味では、彼女は父である故・朴正煕大統領に似ている。

美しい理想主義やビジョンというオブラートで包むのではなく、グローバル化した世界、しかも米中間の角逐が激化する困難な状況のに対し、彼女は現実主義的で独断的なまでの、強いリーダーシップで立ち向かう。そんなリーダーを必要としているのも、韓国の一つの現実なのかもしれない。

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