韓国・新大統領は「親日」か「反日」か 朴槿恵新政権とのつきあい方

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新大統領は融通が利かない側面もあるが、約束は守る人

静岡県立大学国際関係学部 教授 小針進

――朴槿恵候補が接戦を制した理由は何でしょうか。

朴槿恵氏は、国民の批判が強い現政権の与党候補にもかかわらず、李明博大統領の失政を批判するなど、与党への審判にならぬように注意深く選挙戦を展開するのに成功したことが1つ。また、「盧武鉉的な韓国」よりも「朴正煕的な韓国」を望んだ韓国人が多かったということだろう。

国民的合意を簡単には得られにくい提案(大連立や改憲の提案)を突然提案したり、国論が二分することがわかっているデリケートな問題(対北・対米・対日政策、国防、人事問題など)を放言して、混乱が多かった「盧時代」よりも経済成長を成し遂げた「朴時代」のほうがよいという判断が多かったこと。そして対立候補の文在寅候補が有利と世論調査などで出たときに、朴正煕時代を「よし」とする層が結集した結果でもある。

――朴槿恵という人物を、政治家としてどう評価しますか。

模範生であり品行方正、悲しい時も感情を殺して平常心を失わない、という評価が韓国国内である。自叙伝などを読むとそのとおりだと思うが、22歳で母(陸英修)を、27歳で父を亡くしているので、人生のはかなさを熟知しているともいえるし、両親を失った後の長い隠遁生活18年(全斗煥・盧泰愚・金泳三政権期下)で、世間から少し乖離した面があるとも言えるだろう。

政治家としては合理的な判断をするだろうが、父の側近が死後に離れていく背信行為を経験しているため、信じることができる人と、そうではない人を選別するような視点があるそうだ。

また、逆鱗に触れると、「レーザー光線」と称されるほどの冷たい目つきでにらみ、その時点でアウトになるケースもある、という話が韓国メディアで紹介されている。原則主義で融通が利かない可能性もある。本人と会った人の話によれば、「約束は必ず守る人」だという。その点を内政でも外交でも期待したい。

――朴槿恵次期政権はどうなりそうですか。

これは、大統領府や閣僚など、政権発足時の陣容を見ないとわからないのではないか。ただ、李明博が「経済大統領」と言われながら、雇用の問題(非正規職の多さ)を解決できなかったので、この解決を図るためにかなり積極的な陣営となるのではないだろうか。また、弟と妹がいるものの、未婚で両親もおらず、親戚関連の不正腐敗とは無関係な点は、コネなどに縛られず、きれいな政治ができるかもしれない。

――日本との関係はどうなりそうですか。また、日本は新政権にどう対処すべきでしょうか。

朴元大統領は、韓国社会の一部で「親日派」の烙印が押されており、それを引きずる形で朴氏は「日本へ厳しく対処しなければ」という姿勢が出るかもしれない。父親から日本的なるものを多分に聞いてきたであろうことから、日本と日本人への肯定的なイメージは少なからずあるだろう。

それだけに、愛憎相半ばする感情があるだろう。「韓日関係は何より日本の正しい歴史認識が必要です。過去を越えて未来を見通す幅広い思考も必要です」と選挙期間中のテレビ討論で述べていた。

(プロフィール)こはり・すすむ 1963年生まれ。東京外国語大学朝鮮語学科卒、韓国・西江大学公共政策大学院修士課程修了、ソウル大学行政大学院博士課程中退。外務省専門調査員(在韓大使館勤務)などを経て現職。

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