資生堂、それでも米国ブランドに走る動機 米ベア社買収の「教訓」は活かされるか
今回の買収で資生堂側が強調するのは、買収の主導者が、日本の資生堂本社ではなく、米国子会社であるという点だ。資生堂は全売上高の6割以上を海外で稼ぐ。魚谷社長の就任後は、グローバル企業化をさらに加速させている。2016年頭からは、日本の資生堂本社が持っていた経営権について、6つの国と地域の子会社に委譲する、地域本社体制を本格的に始動。同年2月には、月1回のグローバル・エグゼクティヴ会議も開始、魚谷社長を座長として、各国首脳から上がってきた重要案件を議論しているという。
米国で経営権を握るのは、マーク・レイ氏だ。これまで仏ロレアルや米コティの北米事業でトップを歴任し、2015年9月に資生堂へ移籍。同時に米国地域本社の社長に就任した。魚谷氏同様の”外様”社長である。魚谷社長からは「単なる海外販売会社のトップとしてではなく、経営の意志決定者として当社に入ってもらった」と全幅の信頼を寄せられている。
ただ、期待が大きい分、レイ氏の前には難しい経営課題が立ちはだかる。2010年に約1800億円で買収した、米ベアエッセンシャルの止血がまだ済んでいないためだ。
既存の買収案件は止血が済んでない
ベアエッセンシャルの場合、主力ブランドの「ベアミネラル」は、ミネラル100%で作られるファンデーションを主力とする、自然派化粧品である。北米での知名度も高い。買収前の営業利益率は30%以上と高く、収益面でも大きく貢献するはずだった。が、買収以降は調子がおかしい。強みであったテレビ通販(QVC)への投資を圧縮したことや、自然派を売りとする競合が複数登場したのが痛手となって、売上高が低迷。資生堂は2013年3月期にはのれん減損に踏み切って、286億円の特別損失を計上、8期ぶりの最終赤字に陥るハメになった。
その後ベアエッセンシャルは、テレビ通販を再強化するとともに、ITシステムの統合や販促費の圧縮などコスト削減に努めているものの、2015年12月期の売上高は前期比2%減、営業利益率に至っては一時30%台にあったのが1桁台まで落ち込み、米国事業低迷の元凶となっている形である。
そこで今年からは、ベアエッセンシャルに対し、50億円以上を投じた大規模な構造改革に乗り出した。「マーケティング改革に加え、直営店からテレビ通販まで幅広く展開する販路も、抜本的に見直す。米国地域本社とインフラを統合することで、販管費も圧縮する」(魚谷社長)。カルフォルニアにあるオフィスも、1年かけて、資生堂の米国地域本社のあるニューヨークに移転させる予定だ。ベアミネラルの創業者も、ベアエッセンシャルとは離れて、米国地域本社に異動した。
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