資生堂、それでも米国ブランドに走る動機 米ベア社買収の「教訓」は活かされるか
資生堂が、かつて手痛い思いをした米国でのM&Aに、再び挑戦する。
同社は、6月2日(日本時間3日)、高価格帯化粧品「ローラメルシエ」や「リヴィーヴ」を展開する、米ガーウィッチ・プロダクツ社(米デラウエア州)について、親会社のアルティコア社から買収することを発表した。買収額は非公開だが、300億円未満と推測される。資金は手元のキャッシュと一部借入金で賄う予定。小ぶりながら、同社による買収は、実に6年ぶりだ。2014年に魚谷雅彦氏が社長に就任してからは初めてになる。
異例の外部招聘で2014年に魚谷政権が誕生して以来、同社はブランドの圧縮やマーケティング投資の強化など、事業基盤の立て直しを優先的に進めている。2017年まではこの”守りの改革”を進め、新ブランド開発やM&Aなどの規模拡大策に打って出るのは、2018年を待つ計画だった。ただ、足元の業績はインバウンド(訪日外国人観光客)需要の恩恵を受ける日本市場を筆頭に、極めて好調。手元資金に余裕が出てきたタイミングで、計画を前倒しして買収に踏み切った形だ。
米国では富裕層からの支持
日本人にはあまり馴染みのないガーウィッチだが、米国では富裕層中心に認知度が高い。2つのブランドを併せて、売上高は約1億7500万ドル(約190億円、1ドル=107円換算)。売上高の9割程度を占めるのが、パリジェンヌ風のナチュラルメイクが人気の高級化粧品ブランド、「ローラメルシエ」。ハリウッド女優のジュリア・ロバーツはじめ、愛用する著名人は多い。北米を中心に、日本を含めた世界34カ国でも展開している、世界的なブランドだ。英ユーロモニターの調査によれば、本国米国での売上高は2011年ごろから停滞気味だが、資生堂によれば「収益性に問題ない」。
一方の「リヴィーヴ」は、成形外科の医者が立ち上げた、スキンケア中心のブランド。売上高は15億円超程度と小粒ながら、アンチエイジングに効果的な化粧品として、富裕層のコアなファンが多い。
ナチュラルとアンチエイジング――どちらも、資生堂のブランド・ポートフォリオではまだ手薄なジャンルであり、かつ米国の化粧品市場では成長トレンドが続いている分野でもある。高級化粧品市場を拡大したい同社にとって、うまみのある案件であったことは間違いない。
「トレンドの最先端である米国で存在感を示すのは、日本の化粧品メーカーの誰もが夢見る。資生堂は『SHISEIDO』ブランドを主力として展開しているものの、欧米の競合と比較したら知名度は圧倒的に低い。すにブランド力が確立されたものが欲しかったのではないか」。競合他社の幹部はそう分析する。
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