しかし、オバマ政権内部の人たちは、安倍氏に関するこのような見方を共有していない。オバマ政権においては、発足当初からずっと、アジアにおける勢力の均衡を重視するグループと、中国との戦略的協力を推進する必要があると考えるグループとが対立してきた。
中国が南シナ海および東シナ海で挑戦的な動きを見せたため、両グループの違いは狭まり、米政権内部では「アジア重視」で足並みがそろってきている。
ところが、尖閣問題については、一方の側を支持するのは挑発的すぎるのではないか、という議論が政権内部にある。
米国が、領土問題については「中立」の立場をとるとする一方で、「尖閣諸島は日米安全保障条約第5条の適用範囲内だ」と明言することについて、オバマ政権内には難色を示す高官が複数存在する。これら高官は中国から、「米国が日米安保条約の第5条に言及することは挑発的であり、米国は中立的立場をとるとだけ明言すべきだ」と告げられている。中国の主張は、オバマ政権内の一部にある程度の共感を呼んでいる。
オバマ政権でも、大きな論争が起きうる
オバマ政権は、安倍氏が非常に戦略的かつ賢明なやり方で、同時多発テロや北朝鮮問題に対処し、日米同盟を取り扱ったことを、現場で目の当たりにしたわけではない。そしてオバマ政権内部では、米国の対中国政策は、東アジアにおける勢力均衡をどの程度重視し、中国を安心させることにどの程度の基礎を置くかについて、意見が分かれている。
そこでもし安倍氏が、たとえば尖閣問題についてこれまで主張してきたことの一部でも実行することになれば、オバマ政権内部で尖閣問題をどう取り扱うかについて大きな論争が起こるのではないかと思う。
そうだとすると、安倍氏を取り巻く外交政策専門家たちは、安倍氏がこれまで主張してきた内容の一部は中国に対する日本の立場を弱くする可能性がある、と忠告するようになるのではないか。
もちろん、安倍氏を取り巻くこの人たちは、中国を喜ばせようとしているのではない。彼らは戦略的なものの見方に長けた人たちだ。日米を引き離しかねない政策を現時点で推進するのは賢明な戦略ではない、とわかっている。
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