現地ルポ!「エチオピアの変貌」に注目せよ 「人類最後の成長大陸」アフリカの興隆

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E&Yによると今後の経済成長を牽引するのは繊維、製薬、革製品などの製造業と、継続する大規模なインフラ整備、今後始まる石油や天然ガスの輸出、そしてツーリズムだという。「2025年までに中所得国になれるのは、こういったすべての要素が一緒になってくるためだ」とE&Yエチオピアのマナジング・パートナー、ゼメドゥネ・ネガトゥさんは話す。

「この国は25年前は荒廃していて、何もなかった。10年前には一体誰が10%の成長率を維持するような今のエチオピアの姿を信じたでしょう? けれども投資家たちはエチオピアを信じ始めています」

農村部は貧しく「最貧国」の1つ

発展の一方で、いまだにトタンの家屋で暮らし、貧しい生活をする人々も多い ©Kiyori Ueno

豪華なホテルやきらびやかなショッピングモールの外に出れば、ぼろを着た母親が乳飲み子を抱えてカネをせびる姿や、歩道にはこじきのような男性たちが寝る姿を多く見かける。

農村部ではいまだにくわや牛を使った農業が営まれ、アディスとは隔絶した別世界が広がる。エチオピア人の約80%はこのような農村部に暮らし、自給自足の貧しい生活をする農民たちだ。国全体の経済成長率は高くても、今でも1人当たりの国民総所得(GNI)は550ドル(2014年:世銀)。国連“人間開発報告書2015”によると、エチオピアは人間開発指数で世界187位中174位。いまだに最貧国の1つだ。

「今のエチオピアの成長の恩恵を受けているのは、(今ブーミングである)建設や不動産ディベロッパー、輸出入に携わるビジネスマンだ。これらの人々は政府とコネがあり、常に特をしている。確かに電車や携帯電話など人々の生活に変化はあるが、生活がよくなったとは言えない。食べるだけで精いっぱいの人たちがたくさんいる」とアディス・アババ大学のマモ・ヘボ助教授(社会人類学)は言う。「格差? もちろん、広がるばかりだ。それもわずかの間でぐんぐん広がっている。トップ5%の人たちは非常に派手でぜいたくな生活をしているが、エチオピアの大多数である農民たちの生活は悲惨だ。経済成長と言われるが、彼らの生活はほとんど変わっていない」。

エチオピアは昨年、エルニーニョの影響で30年で最悪といわれる大干ばつが起き、国連によると現在1000万人を超える人々が食糧支援が必要という状況に陥っている。最近は大洪水も起き、さらに被害が拡大した。

エチオピアで緊急支援を行う国際NGOオックスファムのエチオピア事務所次長のリカルド・リカルディさんは、「この国では非常に多くの農民たちがいまだに雨に頼った農業を行っているのが現状で、農村部とアディスの差はとても大きい。政府はこのような貧しい農家の支援をしたいと言ってはいるものの、それは経済発展の妨げにならない程度でのみ、とも言っている」と話す。「この国は人口が多く、それも貧しさの大きな要因だ。経済成長のための施策と農民たちへの支援を両方とも成し遂げるのは難しい」。

今後、このエチオピアにまつわる話題を隔週のペースで短期集中連載していく。なかなか日本では報じられることがない、この大国の現実をぜひ多くの人に知っていただきたいと考えている。

上野 きより ジャーナリスト、元国連職員

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うえの きより / Kiyori Ueno

ブルームバーグ・ニュース東京支局、信濃毎日新聞社などで記者として働いた後、国連世界食糧計画(WFP)のローマ本部、エチオピア、ネパールで働き、食糧支援に携わる。2016年から独立。慶應義塾大学卒業、米国コロンビア大学院修士課程修了。東京出身

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