物価が上昇すれば、所得も増加するだろうという見方は、非常に短絡的だと言わざるをえません。たとえ大規模な金融緩和により物価を上昇させることができたとしても、今の日本では所得の増加はとても見込めないのではないでしょうか。所得の増加が伴わない物価の上昇は、大多数の国民生活を苦しくさせてしまうだけなのです。
米国でも家計所得は5年連続で減少中
政治家はもっと経済の歴史を学ぶ必要があります。金融危機後の米国では、大規模な金融緩和を行った結果、さらなる金利低下が銀行の貸し渋りを強め、苦境に陥る中小企業を増加させました。
雇用の中核を担っている中小企業が苦しめば、国民の所得が思うように増えるはずがありません。米商務省によると、11年の米国の家計所得は5年連続減少し、中間層の所得の落ち込みが顕著になっています。
そんな中で、ガソリン価格の上昇に代表される2~3%の物価上昇は、生活コストを上昇させ、米国民の生活をいっそう苦しくしてしまっているのです。つまり、米国のケースでも「物価の上昇→所得の増加→消費の拡大」という順序立ては成り立っていないのです。
過剰な金融緩和によって日本でインフレが起こるとすれば、それは、国民の所得が伸びない中での悪いインフレしかないだろうと思うのです。金融緩和に過度に依存しようとしている政治家には、この当たり前の考えが抜け落ちてしまっています。
また、金融緩和による通貨安についても、多くの国民が誤解しています。確かに、円安が進めば輸出企業は収益を伸ばし株価の上昇も見込めますが、円安の進行が国民の平均所得にはむしろ下げ圧力となって働くからです。
たとえば、お隣の韓国のケースでは、過去5年間で所得は約10%上昇しましたが、物価は約17%も上昇、所得は実質的に大きく下がってしまいました。
ウォン安によって、韓国のサムスン電子などの輸出企業は、史上最高益を更新し続けていますが、国民所得を見るかぎり、日本より明らかに国民生活が苦しくなっています。
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