子に継がせるなら、経営者として英才教育せよ 星野佳路 星野リゾート社長
私の場合、実家の旅館を継ぐ、という気持ちは8~9歳の頃に芽生えていた。だから継ぐか、継がないかで迷うことはなかった。むしろ積極的に、実家を含め旅館業界は遅れている、自分がやることはたくさんある、という意気込みで、父が元気な頃に経営を引き継いだ。
周囲には、同じように親の跡を継いで成功している友人たち、丸井の青井浩氏、日本交通の川鍋一郎氏などがいる。彼らの話と私の経験から言うと、子どもに事業を継がせたいのであれば「経営者として育てる」とよい。実家に戻らなくてもやっていけるだけの、経営者としての能力を身につけさせる。経営を学んだ「経営者の卵」の目には、すぐに手腕を発揮できる実家の基盤は魅力的な環境に映る。自然と事業を継ぎたいという気持ちになる。
逆に、この経営者としての能力がなければ、跡を継いでもうまくいかないのではないだろうか。
旅館再生事業を通して考えると、息子、娘だから継ぐ、という時代は終わったように感じている。
かつての旅館では、大手ホテルや有名旅館で修業し、その経験を生かして跡を継ぐのが一般的だった。だが今や、インターネットを使った情報発信による集客などの広報戦略、需要に応じた季節ごとの価格戦略、旅行代理店だけでなく一休・楽天・じゃらんなどネットエージェントを使った販売や、チャネル戦略をどうするか。人件費や労働環境など労働生産性向上のための施策、財務分析、金融機関との交渉と、経営者として、MBA(経営学修士)取得者並みの知識、能力が要求される。