余談だが、本格的な手描き友禅の場合、完成までに26もの工程を踏む大変手間のかかるものだから芸術的センスも必須である。現在の主流は手描きではなく、型染めや捺染でコンピュータグラフィックスの世界だから、何も京都でなければならない理由もない。それでも正統な手描き友禅となると一味違う。手描き友禅は乾燥後、柄絵の部分に色を手書きで挿して描き加えるから正に伝統文化の世界である。
ブランディングと聞くとエルメスなどの超高級ブランドを思い浮かべるが、和服の世界に高級ブランドを定着させるという考えには無理があるようだ。先に京都のハイテク企業を例に出したように、ブランディングには企業コンセプトとターゲットとポジショニングが必要だ。企業コンセプトは具体的に「誰が、誰に、何を、どのように伝えるか」を意味するが、和装ビジネスには伝統文化にあまりに依存しすぎていたためか、卓越した企業コンセプトを見たことがないように思う。ターゲットについても誰を対象にするのか明確ではなかったし、衣料における和服のポジショニングについても、中途半端で新しい発想もなかったのではないか。
人気を定着させるために必要なこと
ところが最近の和装ビジネスに変化が押し寄せている。レンタル着物に代表されるような和装市場(と言っても浴衣中心だが)が急拡大しているのだ。
結論から先にいえば、「絶対需要が多い」「商品単価に競争力がある」「付加価値があり利益率が高い」「将来的な発展が予想できる」という4つの要素が十分になければ、今の着物ブームは一過性のもので終わる。和装人気を長続きさせるためには、マーケットに新しい需要構造と付加価値を作り出し、着物ファンの支持を集めることが大切である。
中国人観光客は増加の一途をたどっている。最近の中国では、結婚式の写真も有名人気取りで撮影するのが大流行だ。彼らはレンタル着物で着飾って、名所旧跡を巡るなど、人目を気にせずに京都の雰囲気を純粋に楽しんでくれている。
2015年の中国と香港からの訪日観光客を合わせると652万人で全体の33%を占める。韓国が400万人で20.3%、台湾が368万人で18.6%。レンタル着物の潜在需要客の訪日観光客のうち、アジア系が1420万人で全体の71.9%となる。そして、その多くが京都観光に来てくれる。と言うことは、観光立国日本の戦略としても、中国やアジア圏からの観光客への新需要に対する囲い込みとリピーターを開拓しないといけない。
しばらく前まで外国人観光客の日本訪問者数は500万人くらいだったのが2014年には1341万人になり、昨年2015年には何と47%増の1974万人に増加した。日本政府の試算では2020年の東京オリンピックの年には4000万人とも5000万人とも予測されている。この追い風を生かさぬ手はない。京都の和装業界は、新たなコンセプトとターゲットとポジショニングを、早急に構築するべきだ。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら