高すぎる日本のガス調達価格、対策はある 米国シェール革命と日本《6》

拡大
縮小

――資源権益の獲得に向けた国家予算の投入は。

もちろん強化している。今夏の国会でJOGMEC法(独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構法)を改正し、産投会計(財政投融資特別会計投資勘定)の予算を天然ガスの上流開発やLNG基地開発に投入できるようになった。以前からエネ特(エネルギー対策特別会計)を通じて上流探鉱へのリスクマネーの供給は行っていたが、今回の法改正によって、天然ガスの採取や液化についても資金を活用することができるようになった。ただ、基本的には民間企業のニーズがどれだけ高まるかによる。

重要なのは需給ベースの価格メカニズムと低廉な適正価格

――先日、関西電力が英国の大手石油会社BPとの間で、17年度から15年間にわたって米国のヘンリー・ハブ(天然ガスの指標銘柄)に基づいた価格でLNGを購入する契約(年間約50万トン)に基本合意しましたが、これをどう受け止めましたか。

非常に画期的な話だ。関電としては、原油連動ではなく実勢の需給を反映した、できるだけ安い価格で調達したいとして玉を探している。一方、サプライヤーであるメジャーも大震災後に2000万トン増加した日本のLNG需要の動向には大きな関心を持っており、その増加分をできるだけ長期にわたって先に取りたいと考えている。

BPは、トリニダード・トバゴに代表されるような安い玉を持っており、今回の契約は、新しい価格フォーミュラでより安く調達したい関電と、他社に先駆けて大量の売り先を確保したいBP双方の利害が一致したものと見ている。今のヘンリー・ハブ価格を基準とすれば、関電は3割程度安く調達できることになる。

こうした動きは他社の間でもいくつか出てくるだろう。私は11月下旬に「第13回ワールドLNGサミット」に出席し、オープニングスピーチを行ったが、メジャーなどのサプライヤーの日本に対する関心は非常に高いと感じた。彼らに対しては、電力会社など日本の公益企業がかつてなく低廉なエネルギーを必要としていることを説明してきた。

――ロシアからのパイプライン直結による天然ガス輸入計画の実現性は。

今のところは難しい。ロシア政府やガスプロムとしては、極東開発を推進したいという強い考えを持っている。プーチン大統領の強いイニシアティブで最優先となっているのが、ウラジオストクでのLNG基地建設であり、その周辺に化学コンビナートや電力施設を造るという計画で動いている。そのため今、日露政府間でサハリン・日本間のパイプライン敷設というアジェンダ(課題)はない。もちろん、経済的な意味ではLNGよりパイプラインのほうが安いかもしれない。ただ、漁業交渉や土地の収用などの問題もあるし、一概には言えない。ともあれ、今のところの両政府のファーストオプションはウラジオストクのLNGとなっている。

こうした長期的なプロジェクトを1つひとつ積み上げていって、メジャーや産ガス国企業による寡占状態に風穴を開けていくことが日本として重要だと考えている。

(撮影:梅谷 秀司)

 

 

中村 稔 東洋経済 編集委員
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