会食でキーマンだけ見て話していませんか? 「連れ」はあなたのことをよく観察しています

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具体的なお願いを切り出す前に、いろいろな話になりました。多くはその編集長の自慢話(!)の連続でした。中でもゴルフがご自慢らしく、プロ並みともとれる数々のエピソードを延々と話していらっしゃいました。私は誰かということには興味なさそうで、一度も私に会話を振られることはありませんでした。

私以外はみんな顔なじみらしいメンバー。会話は彼と取引先の重要な立場の男性とでほとんど繰り広げられていて、私一人だけ場違い、あるいは、そこに居ないも同然でした。しっかり自分のことを名乗るきっかけもないまま会が進んで行ったのです。

会の途中で急に編集長が私の腕を取る場面があり、驚いて「どうするのかな」と編集長を見ると、ゴルフのスイングの話を続けています。その時に目に入ったのが私の腕。「ここをこういうふうに」と説明するのにちょうどいいところにあっただけなのでした。

その話も終わり、私の腕もすぐに離され、会は続いていきました。その日の趣旨である仕事のお願いもして、5時間もの長い会がやっと終わりました。その5時間、私が言葉を発する機会はただの一度もありませんでした。もちろん皆と一緒に笑ったりはしていましたが。誰もそのことさえ気付いていない様子で、疲れ果てて家に帰りました。私にとって強烈な思い出となる食事会でした。

初めて会う人との会話はなぜ重要か

時を経てその日から20年ほど経ったとき、その時の編集長が会社を退職されることになりました。その方とはその後仕事上いろいろなかかわりはありましたが、その時の食事会の話題を振ることは、もちろんありませんでした。私にとっては記憶から消し去りたい思い出でした。彼にとっては、その会はいつもの会食のひとつでしかなく、そこに私がいたことはもちろん記憶にはなかったでしょう。

送別会は大規模な会になり、私も幹事の一人に選ばれたのです。当時、私は前の会社を辞めて独立し、新しく広告会社を立ち上げて経営する立場になっていました。あの「屈辱の会」から20年、彼から直接ご指名をいただくとは、私にとって感慨深い出来事でした。もちろん、喜んでお引き受けしましたが、この20年間、あの時の会食の印象がもう少し違っていれば、その方との人間関係もより深まったのではないかと、残念に思いました。

この例は極端な話かもしれません。でも、初めてその人と言葉を交わす場面は大事なのです。仕事をしていると、毎日いろいろな出来事があるので、いちいち誰と何を話したのかは覚えていないものです。しかし、自分がまだ経験が浅くて自信がないころの経験は、強烈に覚えているものなのです。逆にそういう時に、自分のことを気遣い、声をかけてくれて親切に対応してくれた人のことは誰よりも記憶に残ります。自分が成功して、立場が上になってから声をかけてくる人のことより、100倍は覚えているものなのです。

会食をきっかけにその人と仲良くなれたら、日常の仕事でもいろいろな場面で助けてくれるかもしれません。その人がいつかキーマンになったり、転職したりすることもあるかもしれませんが、それは長期的な結果論にすぎません。そういうことがきっかけでふだんの人間関係に意外な広がりが生まれていくものなのです。

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