あなたはネットの本質を理解していますか 破壊的なイノベーションを起こした理由
逆に仮想化作業を行う人のセンスが悪いと、誰も使わないということもある。設営するのに3時間もかかるが猛烈に頑丈なテントを開発してしまった製作者は、良心的ないい人である可能性は高いが、ビジネスセンスが完全に欠落している。そんな面倒くさいものは誰も使わないからである。
仮想化においては、正しいか間違っているかという倫理よりは、便利か不便かという感情が優先してしまう。
仮想化で失われるものと得られるもの
テレビ会議(telepresence)も「会議しているということにしておこう」という一種の仮想化である。しかしこの仮想化は、たくさんの大切なものを削ぎ落とし過ぎてしまった。
「居眠りしている隣の同僚」「張りつめた緊張感」「ディスプレイの外にある光景」「外をバイクが通過していく音」といったものがばっさり切り捨てられている。
議論(=言語を利用した論理的な交渉)の本質的な内容は伝わっているではないか、と開発者は言うが、この開発者は会議の本質が議論の中身ではなく、同じ時刻に同じ場所に集合するという態度の中にある、ということがわかってない。
地方に本社を構える中小企業の社長が頻繁に東京を訪れざるを得ないのは、テレビ会議が会議にならないことを知っているからだし、あまり人望のない専務が「俺はそんなことは聞いてない」と言って拗ねてしまい反旗を翻すなどという茶番がこれからも続くのは、自分の部屋まで根回しに来てくれなかった寂しさの裏返しである。もっとも、こういう専務こそ真っ先に仮想化したほうがいいような気もする。
仮想化は原価率を劇的に下げる。従ってどんな業種の経営者も、そしてこれから起業する人も、好むと好まざるとにかかわらず武器にせざるを得ない。
例えば、前述の民泊も実は昔からよくある制度に過ぎないのだが、これにインターネットと情報通信技術──具体的には、標準化された検索技術、データベース技術、予約システム、ブラウザというアプリケーションなどが結合すると、オーダー数が桁違いになる。
結果的に一泊あたりのコスト(原価)をぐんと下げることになるので、人気のある民泊は笑いが止まらないという状態になり、近傍にある高級ホテルは閑古鳥が鳴くであろう。そんなに大繁盛する民泊を運営している人が本当に幸せなのか、という議論はとりあえず脇に置いておく。
この場合、本当に儲かるのは部屋を提供する当事者ではなく、民泊予約受付システムを主宰している事業者である。これを「プラットフォーマー」というイヤらしい言葉で呼ぶ人もいる。店子がプラットフォーマー(主宰者)より儲かるということは、基本的には、ない。民泊においてはAirbnbがおそらく圧倒的なシェアだろう。